EICニュースレターNo.9


本号の目次
新しいEIC計算機システムについて(鷹野澄)
気象庁一元化震源データFTPサイトのミラーサイトの運用について(鷹野澄)
岩手山直下のマグマが見えた?(山中佳子・菊地正幸)


新しいEIC計算機システムについて

現在ご利用頂いているEIC計算機システム(CRAYCS6400+HITAC M-640)は、今年度末に更新時期を迎えます。このため本センターでは、EICニュースレターNo.7にてご案内のように、時期システムの選定を進めて参りました。このたび入札が完了し、シリコングラフィック社(SGIと略す)のCRAY Origin 2000システムが次期EIC計算機システムとして採用されることになりました。そこで本ニュースレターでは、来年3月からサービス予定の時期システムの概要をご紹介します。

新しいEIC計算機システムは、64個のR10000プロセッサ(250MHz)と、32GB共有メモリを搭載した並列計算機です。現在のCRAY CS6400と比べると、プロセッサの単体性能で5倍以上(総合性能で10倍以上)が見込まれています。CRAY Origin 2000は、主に計算サーバ並びに大容量ファイルサーバとして利用されます。

オペレーティングシステムはIRIX(SGI社のUNIX)を採用しています。ユーザからみた利用方法は、現在のCS6400の場合とほぼ同様で、コンパイラによる自動並列化、NOSによるバッチジョブの投入、MATLAB,SCSL,(LibSci相当の数値計算ライブラリ)などが利用可能です。さらに今回試験的に有限要素法のパッケージとして、ANSYSを導入しました。なお大型のバッチジョブについては、メモリ上限は最大で5GBまで、CPU時間は最長15日まで利用可能とする予定です。ご期待ください。

外部ディスクとしては高速のファイバーチャネルRAID装置(140GB×4=284GB)と通常のRAID装置DF400(71GB×4=284GB)が接続されています。これによりユーザファイルを最大1〜2GBまで利用可能にし、新たに作業用ファイルとして短期ファイル(一定期間利用されないとき自動的に消されるファイル)の運用も行う予定です。

また大容量記憶装置として、35GBのDLTテープを248本搭載した総容量8TBの磁気テープライブラリ装置STK TimberWolf9710が接続されます。この装置を利用して、ディスク上のユーザファイル等の自動バックアップの運用と、大容量の階層型ファイルシステム(使用頻度の高いものをディスクに、低いものをテープに自動的に移動して見かけ上の大容量化を実現したもの)の運用を行います。階層型ファイルシステムは、アクセス速度は遅いけれど、変更されることの少ない大量のデータファイルを置くのに適しています。新J-arryデータなどのセンターのデータベースに利用されるほかに、適切な利用と認められた場合、ユーザでも利用可能にする予定です。例えば、ディスクに置くのが難しい大量(10GB〜1TB以下)のデータをプログラムから利用したいとか、ある程度の大量のデータをデータベースとして公開したいなどで、階層型ファイルシステムの利用を希望される方はセンターにご相談ください。
CRAY Origin 2000のクライアントワークステーション端末としては、CPUとオペレーティングシステムが同じであるSGI社のOCTANE/SEワークステーションが10台導入されます。これらは、情報センターの端末室(504号室など)に設置する予定です。さらに試験的に、プレゼンテーション端末として、SGI社の02ワークステーションを1台端末室に設置します。02も同じCPUとOSからなり、ユーザがビデオデッキやビデオカメラなどを接続することが可能です。これらの端末では、AVS社のAVS/Express Vizが利用可能で、大規模計算結果の可視化や動画の作成などが可能となる予定です。

カラープリンタとしては、現在のPixelは撤去し、EPSON LP-8000を2台設置します。モノクロプリンタも現在のSparcPrinterを撤去し、EPSON LP-9200PS2を導入します。また既存のシステムのサービスの内OS等の違いによりOrigin 2000にうまく移行できないもののために、SUNワークステーションUX7000/450を1台導入する予定です。ネットワークは、100BASE-TXを主とし、サーバとの接続には、100BASE-SX(Gigabit Ethernet)を採用します。

次期システムへのファイル移行は、1月から開始の予定で現在準備のための打ち合わせを行っています。アンケートで頂いた移行磁気テープの数は180本以上あり、その他にEJC上のファイルが多数あります。これらを短期間で移行可能か現在検討中です。なお、かつて汎用計算機HITAC上にあったデータやプログラムは、CS6400を導入したときに/u/vos/eaXXX/の下に移行してありますが、その後HITAC上に作られたものについては、今年中(遅くとも1月中)に、ユーザ各位によりFTP等でCS6400のディスクに移行されるようお願いいたします。移行方法がよくわからない場合はセンター職員までご相談ください。

次期システムの利用方法などのご案内は2月末から3月頃に行う予定です。遠隔ユーザのために、Webによる利用の手引きも用意する予定です(時期は多少遅れるかもしれません)。機種更新にあたっては、ユーザ各位には色々ご不便をおかけするかと思いますが、皆さまのご理解とご協力をお願いいたします。
(文責:鷹野)

図1 次期EIC計算機システムの構成


気象庁一元化震源データFTPサイトのミラーサイトの運用について

平成9年10月より、大学や防災科技研、自治体などの地震観測データも気象庁において一元化処理されるようになりました。その処理結果は、気象業務支援センターから実費販売で発行されている刊行物、地震・火山月報(カタログ編)、地震月報FD(全国震源データ)、地震年報CD-ROMにて公表されていますが、毎日更新されている暫定震源データについては公表されていませんでした。この度、気象庁では、刊行以前の暫定震源データも含めた一元化震源データを、FTPにして「ac.jp及びgo.jpの機関に所属し、利用希望した研究者」向けに提供開始いたしました。そしてその便宜を図るために、気象庁との合意により、地震研究所に、下記の要領にて気象庁一元化震源データFTPサイトのミラーサイトを運用する運びとなりましたのでお知らせいたします。


〈地震研のFTPサイトにおける気象庁一元化データの利用方法〉  
FTPサイトのアドレス:ftp.eri.u-tokyo.ac.jp
FTP login名:guest
パスワード:利用者のe-mailアドレス(注:気象庁の利用条件を満たすホストからのみlogin可能です)
ディレクトリ:/pub/data/jma/mirror/JMA_HYP

地震研究所のFTPサイトにおけるデータの利用条件は、上記の気象庁のFTPサイトと同じです。もちろんデータは自動的にミラーリングされていますのでどちらでも同じものが入手可能です。データを利用される方は、以下の(HowToUseファイルにある)利用方法をそん守の上ご利用ください。
なお、気象庁のFTPサイトの利用方法等については、下記受付窓口にお問い合わせください。

本FTPsiteの震源データの利用に際して

本FTPsiteで公開している震源データは以下のとおりです。
/pub/data/jma/mirror/JMA_HYP:確定震源データ
/pub/data/jma/mirror/JMA_HYP/JMA_PDE:暫定震源データ
暫定震源データは地震・火山月報(カタログ編)で公開された地震以降の震源のデータです。地震・火山月報(カタログ編)が発行されるとその期間のデータは暫定震源データのディレクトリから削除され、確定震源データのディレクトリに移行されます。通常、これらのデータは毎日更新されます。

なお、このデータを利用される場合には、利用目的、利用内容を可能な範囲で結構ですので、下の受付窓口までメールで教えてください。頂いた情報を整理し、気象防災対策特別措置法の趣旨に沿って行う気象庁によるデータの処理作業の参考にさせていただきたいと考えています。
受付窓口:地震火山管理課 地震情報企画官(森 滋男 :shigeo.mori-a@met.kishou.go.jp)


例:
利用目的:○○と地震との創刊の有無の検証の研究用
利用内容:○○に○○を測定する観測点を設置し、○年○月以来観測を継続。いくつかの異常変化を検知。震源データは、これらの異常変化と地震活動との相関の有無の検証に利用。

[補足]利用に当たっての注意事項  
1/本FTPsiteのデータを使って得た研究成果を公表する場合には、良識に従って出典を明示し、謝辞を明記することが求められます。具体的には「気象庁・科学技術庁が協力してデータを処理した結果を使用した」旨を記載することが求められます。また、地震波形を提供した機関(平成10年11月現在:科学技術庁防災科学技術研究所、北海道大学、弘前大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、高知大学、九州大学、鹿児島大学、通商産業省工業技術院地質調査所、東京都、静岡県、神奈川県温泉地学研究所、横浜市、海洋科学技術センター、及び気象庁)に対する謝辞を書くことも求められます。

2/検測値を含む最終的な処理結果は、(財)気象業務支援センター(住所:〒101ー0054 東京都千代田区神田錦町3-17、пF03-5281-0440、FAX:03-5281-0443)から実費販売している次の刊行物をご利用ください。地震・火山月報(カタログ編)、地震月報FD(全国震源データ)、地震年報CD-ROM。

3/著作権について:(C)気象庁 1998
  1・このFTPsiteの内容を気象庁に無断で第三者に提供することは禁じます。またこのFTPsiteの利用は非営利目的に限ります。
  2・このFTPsiteに含まれるデータを利用した場合は気象庁提供であることを明示してください。




岩手山直下のマグマが見えた?

(左が図1)                              (右が図2)
1998年9月3日16時56分、岩手県内陸北部でM6.1の地震が発生しました。(この地震の解析結果は前号のEICニュースをご覧下さい。)この地震の震源に近い科学技術庁防災科学技術研究所K-NET(注)の4観測点の強震動記録(上下動成分)を図1に、ここで示した観測点の分布を図2に示します。

これを見ると西根観測点の記録のみ、他の観測点の記録に比べて短周期がかなり減衰していることがわかります。図2を見ると、震源と西根観測点の間には岩手山が存在しています。岩手山は今年火山性地震が見られ、GPSやSARで山の膨張傾向が認められた火山です。ですからもし岩手山の下に開口割れ目やマグマなどが存在してそこを波線が通ったとしたら短周期の波は減衰します。減衰の可能性として、観測点直下の影響も考えられます。我々は東北地方で起こったやや深発地震の波形を見てみました。この地震の波線はほとんど真下から来ると考えられます。しかしこの地震の波形にほ、今回見られたような減衰は見られませんでした。

そこでMatsuzawa et al. (1989)による二重スペクトル比法を用いて、岩手山直下でのQs-1を推定してみました。この方法は、複数の地震、複数の観測点のペアを作り、スペクトル比を取ることによって震源スペクトルと観測点直下の地盤応答特性はキャンセルし、震源から観測点までの経路の伝達特性を抽出する方法です。

ある地震からある観測点までの間に他の経路に比べて十分大きな減衰域があったとすると、スペクトルの振幅比A(f)はこの経路の伝達特性だけで近似され、
A(f)=exp(-πfT/Q)
と与えられます。TとQは、それぞれ1-A間の伝達時間とQ値です。もしQがfに依存しなければ、周波数fに対して式(1)の振幅比は右下がりになり、この傾きから波動伝播経路でのQ値を推定することができます。

図3は今回の地震と太平洋プレート境界で起きた地震の西根と盛岡で得られたスペクトルの振幅比を取ったものです。これを見ると1-6Hz付近で右下がりの傾向が見え、太平洋側に起きた2つの地震を使った場合にはそのような結果は見られずほぼ一定な値を示している。この結果は、今回の地震と西根観測点の波動伝播経路上になんらかの減衰の大きな領域が存在することを示しています。図からQ値を推定すると、Q= 20〜30が得られます。佐藤[1986]のコーダ波から求めた地殻でのQ値はおよそ100程度でしたから、今回推定された減衰は有意に大きいものです。

今回減衰が見られた波線は、岩手山直下の深さ10km付近を通ってきています。このことから、ここで求められた減衰は岩手山付近の開口割れ目やマグマに関係したものと考えられます。今回は1つの波線経路の結果だけであるので、減衰域の範囲を特定することはできませんでしたが、もし岩手山北部の観測点のデータがあれば、減衰域の大きさ、位置なども推定できるでしょう。
(山中・菊地)

注:K=NETは、科学技術庁防災科学技術研究所によって、全国に約25kmの間隔で設置された強震観測ネットです。そこで得られた強震記録はインターネットで公開されています。