EICニュースレターNo.7


本号の目次
新しい地震予知計画について (菊地正幸)
EIC計算機システムの機種更新について (鷹野澄)
EIC地震学ノートより抜粋 (菊地正幸・山中佳子)
研究集会「大規模計算と並列計算」報告(桧山澄子)


新しい地震予知計画について
菊地正幸


先月中旬に測地学審議会から、『地震予知のための新たな観測研究計画の推進について』と題する建議(中間報告)案が出されました。この内容について、マスコミのみならず研究者の間でも評価は様々なようです。私は、個々の実施項目はこれまでと大差はないかもしれませんが、基本戦略として地震発生の全過程の理解に徹底してこだわったところに大きな特徴があり、また、そのことを明確に打ち出したことに大きな意義があると思っています。

“それは事実上予知が不可能だと言っているようなものだ”とか、“直前に起こる現象(前兆現象)さえきちんと把握できれば予知できる”という主張もあります。しかし、これまでのところ、そのような方法で多くの研究者が納得するような予知がなされたことはありませんでした。多くの研究者が納得する方法でない限り、結局は地震防災に向けた具体的な施策を引き出す力とはなり得ません。

中間報告案が出された次の日7月16日に、あるラジオ番組でこれに関連した話題が取り上げられました。測審の会長をはじめ、研究者、自治体防災担当者などが、スタジオの司会者や弁護士からの質問に答え意見を述べるというものです。私も急遽かりだされ、ほんの数分間でしたが、「予知の現状と今後」について話をしました。その中で、E弁護士が“できないことをできないとはっきりさせた上での基礎研究というのなら支持できる”と言われたのが印象的でした。

新しい予知研究計画が研究者の合意と広く国民の理解を得ることができるよう願う次第です。 


EIC計算機システムの機種更新について

本センターは、地震データの相互利用の促進と全国共同研究プロジェクトの推進を図ることを目的として設置されました。本センターの計算機システムは、全国の大学間の地震予知観測データ流通システムの中核としての機能をはたすと共に、全国共同利用研究所の共同利用の計算センターとして、地震予知研究等のために、全国の共同利用の研究者にも広く利用されております。

本センターの計算機システムは、昭和55年3月に当時の地震予知観測情報センターの計算機システムとしてIBM3031システムが導入されて以来、昭和57年4月にIBM4341システム、昭和61年2月にHITAC M-280Hシステム、平成2年3月にHITAC M-680Hシステムに順次更新し、平成6年6月に地震研究所が全国共同利用研究所に改組されてからは、平成7年3月に現在のCRAY CS6400+HITAC M-640システム
(以下CRAYCS6400システムと記す)に更新しました。

現在のCRAY CS6400システムに更新後も、地震研究所内外の研究者による観測データ解析処理や理論計算処理等の利用は着実に増加し、導入後2年目で繁忙期におけるシステムの一ヶ月間の平均CPU稼働率が80%以上に達する事態となりました。一方パソコンやワークステーションの新機種の性能向上は目覚しく、すでに現在のCRAY CS6400システムでは、本センターのユーザ需要を満足することが難しくなっております。そこで今回の機種更新によりCPU性能、メモリ容量,ディスク容量のすべてについて大幅な増強を行いたいと考えております。

さらに最近の地震学の研究においても、モデル計算やシミュレーションなどの大規模な科学技術計算の需要が増大しつつあります。現在の限られた予算の範囲内でこのような新たな大型計算需要の全てに対応することは難しいとしても、全国共同利用研究所の計算機システムとして、可能な限りこのような新たな計算需要にも応えたいと考えております。

このため今回の更新においては、計算サーバ(現在のCRAY CS6400)の処理能力を重点的に強化し、また計算サーバによる計算結果の新しいプレゼンテーションの為のシステムの導入を新たに試みるなど、大規模計算重視の新しいシステムを導入する予定です。一方、センター設立当初から地震データベースやデータ解析処理等のために継続して提供してきた汎用計算機(現在はHITAC M-640)については導入をやめて、その磁気テープや光ディスク等に保存されているデータ等のソフトウェア資産は新システムに全て移行する計画です。

機種更新にあたっては、いろいろご不便をおかけするかと思いますが、利用者の皆さまのご理解とご協力をお願いいたします。

(文責 : 鷹野)

お願い 現在汎用計算機上で利用されているデータやプログラムがありましたら、今年中にCS6400システム上に移行されるようお願いいたします。この移行のためにサポートが必要な場合、あるいは移行方法がよく分からない場合は、センター職員までご相談ください。


EIC地震学ノートより抜粋

先月起こった地震の中から、甚大な津波被害のでた
パプアニューギニアの地震を取り上げます。

No.48               Jul 21, 98

7月17日パプアニューギニアの地震(Ms 7.0)


概略・特徴: 7月17日夜(日本時間午後5時49分)、パプアニューギニア北西部沿岸でMs7.0の地震がありました。この地震で西セピク州アイタペ地区は高さ10メートルの大津波に襲われ、死者は数千人を超えているとのことです。USGSの速報による震源諸元は次の通りです。

発生時刻 震央 深さ Ms
08:49:15 UT 3.10°S 141.80°E 33 km 7.0
      
データ処理:  IRIS-DMCのデータを地震研究所の準リアルタイムサービス (gopher) により収集しました。解析には11地点の広帯域地震計記録(P波上下動)を用いました。波形は比較的単純で、小さい初期破壊のあと、約20秒間の単発破壊です。
結果: 解析結果を図1に示します。主な震源パラメータは以下のとおりです。

走向、傾斜、すべり角=(299,88,95)/(53,6,24)
地震モーメント Mo =4.2x10**19 Nm (Mw = 7.0)
破壊継続時間   T = 20 s
深さ(Centroid) H = 15 ± 5 km
断層面積     S = 40x15 km**2
くいちがい  D = Mo/μS = 1.8 m(μ=40 GPa)
応力降下   Δσ = 2.5Mo/S**1.5 = 7.1 MPa

解釈その他: 震源はかなり浅く求められました。
メカニズム解はほぼ水平面と鉛直面にP波節面をもちます。前者が断層面の場合はプレート境界の低角逆断層、後者の場合はプレート内部の鉛直断層に対応します。どちらが波形の一致がよいか比較してみましたが、波形だけからは判定できませんでした。津波の規模Mt(阿部によると7.5)がMs,Mwのいずれよりも大きいことを考えると、鉛直の断層面の可能性が大きいのではないかと思われます。今後の調査(地殻変動、余震など)が待たれます。
    
(文責:菊地・山中)


研究集会「大規模計算と並列計算」報告

地震研究所共同研究集会「大規模計算と並列計算」を、7月6日、7日の両日にかけて行いました。なかなかの盛況で(出席者103名),大学・研究機関の人だけに止まらず、遠方からの参加者も多く、関心の高さに驚きました。

近年並列計算機の普及に伴い、数値計算の分野では並列計算を意識したアルゴリズムの研究が盛んになっています。また,計算機のメモリや演算処理速度の制限のため今までは出来なかった大規模な問題、非線型性の強い問題が、コンピュータの発達で解決可能になってきたこともあって、これらの問題に対する新しい算法が次々に提案されています。例えば流体問題の有限要素法解析などがそうで、高精度、高速な算法が生まれています。

一方地震学の世界では、地震発生過程や、プレート境界で発生する巨大地震の発生サイクルを、数学モデルで再現(地球シミュレーション)しようとする試みが始まっています。

そこで、地球科学と応用数学という異なる分野の研究者が一堂に会し、それぞれの分野で何が問題であり、どのような手法で、その問題を解決できるかをデスカッションしようと、この研究集会を企画しました。

第1日は偏微分方程式に話題を限り、宮武の「地震発生過程と地震波生成・伝播のシミュレーション」や鈴木・田端(九大)の「3次元球殻内熱対流問題の有限要素法」等の発表がありました。また,有限要素法を並列計算向きに効率化することを取り上げた、藤間(茨城大)の「流れ問題の領域分割有限要素法」も興味深い話題でした。

偏微分方程式を解く場合には、大規模計算では、数値解の安定性や収束性の問題に必ず遭遇します。それらは結局、大規模な連立方程式の高精度、高速な解法に帰着します。そこで2日目は、基本的な連立方程式や行列演算の話題を主題にしました。この内容は地震学者には馴染みが薄かったかもしれません。共役勾配法を使うときの大前提は「正定値行列」ですが、必ずしもそうでなくともよいといった、張(東大)、森(京大)の「対称不定値行列への共役勾配法の適用」や建部(電総研)の「ポアッソン方程式に対するMGCG法の収束率と並列効率」など、実際の計算で役に立つと思われる発表が多数ありました。 並列計算機を上手に使うためには,ライブラリーを利用することも重要なポイントですが、数種の並列計算機を装備している原子力研で、ライブラリを共通に使えるようにしたという岸田(原研)の「原研並列計算ライブラリの開発」の発表もありました。

異分野との交流を目指すこの研究集会は、昨年行いました「地震学とWavelet」に続いての第二弾目になります。機会を見て今後もこのような研究集会を継続したいと考えています。

集会に先立ってアブストラクト「大規模計算と並列計算」36ページを作りました。まだ少し残部があります。ご関心のある方は桧山(501号室)hiyama@eri.u-tokyo.ac.jpにご請求下さい。なお、この集会の集録は月刊地球10月号に載る予定です。


EIC(Cray CS6400)のジョブクラス(98/5/12から)
クラス名 CPU時間上限 メモリ上限 同時実行数
annex 1 hours 2 GB迄 2 jobs迄
hikari 1 days 2 GB迄 2 jobs迄
kodama 30 days 2 GB迄 2 jobs迄
nozomi 50 days 2 GB迄 2 jobs迄