YCU地震学レポートNo.50 Feb.06, 96
95年12月 3日 エトロフ島の地震(Ms8.0)
96年 1月 1日 ミナハサ半島の地震(Ms7.7)
1月27日 フランス核実験(mb5.4)
2月 3日 雲南省の地震(Ms6.4)
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<付録>1月 7日 隕石衝撃波(?)の記録
創刊から50号までの目録
何となく地震が一段落したように見えるのは,単に国内の被害地震が起こっていな
いためであって,太平洋周辺に目を向ければ相変わらずM8に近いクラスの地震が起
こっています。今回は2つの大地震と先日の中国雲南省の地震のほか,フランスの核
実験による地震波もとりあげます。これは一連の核実験の中では最大規模のものでし
た。また,正月早々話題になった隕石落下の衝撃波と思われる記録を添付します。
1。95年12月3日エトロフ島の地震(Ms8.0)
日本時間で12月4日未明の地震です。気象庁によると根室,八戸,釧路でそれぞ
れ17cm,13cm,10cmの津波が観測されました。USGSの震源情報はつぎの通りです。
発震時刻 震 央 深さ Ms
95/12/03 18:01:09 UT 44.58N 149.39E 9 km 8.0
米国IRIS(地震学研究連合)の広帯域地震記録を用いた解析結果を図1に示し
ます。メカニズムを固定してサブイベントの時空間分布を求めたものです。主な震源
パラメタは以下の通りです。
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メカニズム (走向,傾斜,すべり角)=(212,19,90):低角逆断層
モーメント Mo= 5.0x10**20 Nm
マグニチュード Mw= 7.7
破壊伝播 北東方向へ約 90km
深さ範囲 H=30 ± 10 km
断層面積 S=100km x 50km
破壊継続時間 T= 60 s
ずれの大きさ D=Mo/μS= 1.6 m (μ= 64 GPa)
応力降下 Δσ=2.5Mo/S**1.5= 3.5 MPa (35bar)
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震源の深さ範囲及び低応力降下からみて,典型的なプレート間地震と考えられます。
今回の震源域は1958年のMw8.3の地震と1963年のMw8.5の地震のちょうど境界付
近に位置するようです。一昨年の三陸はるか沖地震の場合同様,位置づけ(解釈)の
難しい地震ですが,私は素直に「地震発生の不規則さ(時間的空間的)の現れ」と考
えています。いずれにせよ,20〜30年前に起こった巨大地震の領域で大地震が再発し
ています。
2。96年1月1日ミナハサ半島の地震(Ms7.7)
インドネシアのスラウェシ島で津波のため住民少なくとも8人が死亡したと伝えら
れています。しかし地震の規模の割にはあまり多くのことがわかっていません。US
GSの震源情報はつぎの通りです。
発震時刻 震 央 深さ Ms
96/01/01 08:05:12 UT 0.67N 119.94E 10 km 7.7
この地震の遠地実体波記録は大変単純な形をしています。したがって波形のモデリ
ングは簡単ですが,逆に,ずれ破壊の空間分布はうまく求まりません。そこで点震源
を仮定して,メカニズムと震源時間関数だけを求めました。結果を図2に示します。
主な震源パラメタは以下の通りです。
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メカニズム (走向,傾斜,すべり角)=(72,12,87):低角逆断層
モーメント Mo= 4.9x10**20 Nm
マグニチュード Mw= 7.7
深さ H=15 km
破壊継続時間 T= 26 s
断層面積 S=100km x 50km (v=2.5km/s の双方向伝播を仮定)
ずれの大きさ D=Mo/μS= 2.5 m (μ= 40 GPa)
応力降下 Δσ=2.5Mo/S**1.5= 3.5 MPa (35bar)
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3。1月27日 フランス核実験(mb5.4)による地震波解析
フランスは現地時間27日12時半(日本時間28日午前6時半),南太平洋
ファンガタウファ環礁で,再開後6回目の核実験を行ないました。報道によると
これで一連の実験は終結とのこと。しかし核兵器使用そのものの危険性は全く解
消されないままです。
これまで同様に今回も目新しいことは何もないのですが,地震波解析の結果を
報告しておきます。基にしたUSGSの震源情報は次の通りです。
発震時刻 震 央 深さ mb
96/01/27 21:29:57 22.3S 138.9W 0 km 5.4
mbは10月27日(5.5)より小さめですが遠地実体波の振幅は逆に大きめで
す。前回同様,0.4 Hzより高周波の変位波形を用いてインバージョンを行ないま
した。結果を図3に示します。モーメントテンソルの全成分は次の通りです。
Mij = 2.9 -1.0 -0.5 [x 10**16 Nm]
-1.0 2.3 -2.1
-0.5 -2.1 3.9 (x1,x2,x3)=(N,E,Down)
主値M1,2,3,スカラーモーメントMo,等方成分Iの値は
M1,2,3= 5.3, 3.3, 0.38 [x10**16 Nm]
Mo=(M1-M3)/2=2.5x10**16 Nm
I=3.0x10**16 Nm
です。
これまでの一連の核実験について,mb,Mo,Iの値をまとめると次のように
なります。Iの値と核実験の規模がよく対応しています。またこの関係から中国の
核実験の規模がかなり大きかったことがわかります。
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中国 France France France France
95/08/17 95/09/05 95/10/01 95/10/27 96/01/27
mb 6.1 4.8 5.5 5.5 5.4
Mo[x10**16Nm] 5.6 0.45 2.6 1.4 2.5
I [x10**16Nm] 4.6 0.36 3.0 2.3 3.0
規模[kトン] ? <20 <110 <60 <120
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4。2月3日 雲南省の地震(Ms6.4)
この地震は現地時間2月3日午後7時ごろに起こり,死者200名余,
重傷者3千7百,軽傷者1万人余を出しました。中国発表のマグニチュードは7.0
ですが,USGS(米国地質調査所)発表の表面波マグニチュードは 6.4です。
参照した震源情報は次の通りです。
発震時刻 震 央 Ms mb
96/02/03 11:14:23 27.25N 100.46E 6.4 6.3
IRISの遠地実体波記録はかなり複雑な様相を呈しています。そこでメカニズ
ムの変化を考慮したインバージョンを行いました。震源は大きく2つのサブイベン
トから成ります。最初のサブイベントはほぼ純粋な正断層,2番目のサブイベント
は少し横ずれ成分をもつ正断層タイプです。全体として東西ないし東北東−西南西
方向に引っ張り軸を持ちます。破壊は北から南に向って約20km進んだと推定されま
す。どなたかこのメカニズムのテクトニクな意味を教えて下さい。
解析結果を図4に示します。個々の震源パラメタは以下の通りです。
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メカニズム 時間 Mo Mw 位置 深さ
(φ,δ,λ) 10**18Nm
#1 (151,36, -99) 0- 6 s 2.3 6.2 - 6 km
#2 (153,63,-142) 8-16 s 4.1 6.3 南へ10km 6 km
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Total (156,51,-127) 5.5 6.4 6 km
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断層面積を S=20km x 10km として,平均的なすべり量,応力降下を見積ると
次のようになります。
D=Mo/μS=0.9 m (剛性率μ=30 GPa)
Δσ=2.5 Mo/S**1.5=4.9 MPa (49bar)
個々のサブイベントの応力降下はもっと高め(2〜3倍)になります。
<付録1> 1月7日 隕石衝撃波(?)の記録
CHU(千葉大学)で隕石落下の衝撃波によると思われる地面の揺れが観測されま
した(図5)。この記録から何が言えるのかわかりませんが,まずもって初動の向き
は鉛直下・南,ということは衝撃波は北の方向からやってきた?
<付録2> 創刊から50号までの目録
手探りの状態で広帯域地震計観測を始めてから早や5年。各観測所の内部連絡用と
して書き始めたのが本レポートです。全く気まぐれの発行で,立て続けにだしたかと
思えば数ヶ月も間をおいたり(今回のように)しましたが,逆にその気まぐれさ故に
途中でやめようと思ったことは一度もありません。
ときどき研究室の学生が,”パンダネットに批判意見がでていました”と心配気に
教えてくれました。そのコメントは大抵正しいものであったようですが,私は敢て訂
正文を載せませんでした。このレポートはあくまで私的なレポートです。
また,”小さい組織にもかかわらずよく情報を発信できる”と感心(?)されるこ
ともあります。が,実は小さな大学だからこそ,ともすれば”情報の過疎地帯”にな
りやすい大学だからこそ情報を発信しているのです。
今後ともよろしくお願いします。 (MK)
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YCU地震学レポート 目録(創刊〜50号)
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号 発行日 題 目
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1 09/26/91 簡単なデータ収録方法 と 地震計特性 について
2 09/09/91 9月3日の本州南方沖の地震について
3 02/05/92 作業報告など
4 11/26/91 11月19日東京湾の地震 解析速報
5 02/03/92 2月2日浦賀水道の地震 解析速報
6 03/13/92 3月10日神津島近海の地震 解析速報
7 04/15/92 4月10日東京東部,4月14日茨城南西部の地震 解析速報
8 05/13/92 5月11日茨城県中部の地震 解析速報
9 05/25/92 5月20日東京湾(M=4.6)のMT解析
10 06/19/92 神津島近海(5月14日,6月15日),千葉(5月17,29日),
浦賀(5月20日,6月10日),茨城沖(6月1日),
東京西部(6月17日)
11 07/11/92 7月7日静岡県西部の地震
12 07/15/92 茨城沖地震(6月1日)の追試とフィジー深発地震(7月11日)
の解析
13 07/26/92 7月16日網代〜芦の湖,浦賀,17日千葉中部,21日静岡県,
22日日本海深部,25日浦賀,26日神奈川北部の地震
14 09/19/92 8月4日千葉,7日若狭湾深部,16日小田原,27日茨城南西部
30日本州南方深部,9月15日山梨東部の地震
15 10/07/92 10月4日伊豆大島東部の地震,及び,VBBチャンネルに現れる
見かけの先駆波
16 10/21/92 10月10日千葉県,14日東京湾,17日神津島近海の地震の解析
17 11/15/92 11月8日神奈川県北部,12日山梨県,14日箱根近くの地震
の解析
18 11/21/92 11月19日神奈川県東部の地震=解析と強震記録=
19 01/14/93 1月10日〜川奈崎沖の群発地震=解析と記録=
20 02/09/93 1月11日愛知県中部地震の震源解析,15日の釧路沖,
19日の日本海深部地震のScS解析,2月7日の能登半島沖の
遠地実体波解析
21 03/11/93 新観測点=東海大学海洋学部(清水市)の開所のお知らせと
3月7日静岡県の地震(M3.1)の解析
22 06/02/93 伊東沖群発地震の記録と解析速報
23 06/28/93 いま,浦賀水道,房総沖で何が?
24 07/20/93 7月12日北海道南西沖地震:広帯域地震記録とその解析(暫定版)
24S 07/26/93 7月12日北海道南西沖地震:遠地広帯域地震記録の解析(暫定版)
25 08/12/93 8月7,8日の静岡県の地震と8月8日マリアナ地震の解析(暫定版)
26 10/21/93 9月29日インド南西部,10月12日ニューギニア東部,
および10月11日の本州はるか南方沖深発地震
27 02/17/94 94年1月から2月にかけての地震の解析とうるう秒補正作業の
報告
28 03/15/94 3月11日神津島近海地震と3月10日フィジー島深発地震
29 05/02/94 4月29日アルゼンチン深発地震と4月30日種子島近海地震の
解析
30 06/10/94 5月27日東京東部, 6月2日インドネシア・ジャワ島,
6月9日ボリビア深発地震
31 10/06/94 10月4日北海道東方沖地震の遠地実体波解析速報(暫定版)
32 10/26/94 10月25日伊豆半島北部の地震 波形解析速報
33 11/17/94 10月29日房総半島沖地震および11月14日ミンドロ島地震
34 12/20/94 12月19日神奈川県西部の地震
35 12/30/94 12月28日三陸はるか沖地震の解析
36 01/15/95 1月7日茨城南西部, 1月10日茨城沖地震のメカニズム
37 01/17/95 1月17日兵庫県南部地震のメカニズム(速報)
38 01/21/95 1月17日兵庫県南部地震のメカニズム(改訂版)
39 04/14/95 4月1日新潟県笹神村地震のメカニズムとマグニチュード
40 04/19/95 4月18日駿河湾の地震のメカニズム解析速報(暫定版)
40s 04/20/95 4月18日駿河湾の地震のメカニズム解析速報(改訂版)
41 05/29/95 5月27日サハリン地震のメカニズム解析(暫定版)
42 06/17/95 6月15日ギリシャ西部の地震のメカニズム
43 07/31/95 7月30日チリ北部地震のメカニズム(速報)
7月03日相模湾の稍深発地震の解析(遅報)
44 08/19/95 8月16日ソロモン諸島地震(本震,余震)と
8月17日中国の核実験による地震波の解析
45 09/08/95 9月5日フランスの核実験による地震波の解析
46 10/08/95 9月29日〜10月5日伊豆半島東方沖群発地震
10月1日フランス核実験,10月6日神津島近海の地震の解析
(+HKY観測点の移転と成分の訂正)
47 10/23/95 10月18日,19日 喜界島近海の地震の遠地実体波解析
<付録>10月9日メキシコWャリスコ地震
48 11/02/95 11月1日喜界島近海の地震の遠地実体波解析
<付録>10月27日フランス核実験
49 11/27/95 11月12日東京中部の地震(Mj4.5)
11月22日エジプトの地震(Ms7.2)
50 02/06/96 12月3日エトロフ沖地震,96年元旦ミナハサ半島地震,
1月27日フランス核実験,2月3日雲南省の地震
<付録>隕石衝撃波(?)の記録,本目録