YCU地震学レポートNo.44                                        Aug.19,95
 
        8月16日  ソロモン諸島地震(本震,余震) と
        8月17日  中国の核実験による地震波の解析


1。ソロモン諸島の地震 日本時間で8月16日午後7時30分ごろ,ソロモン諸島を震源とするMs7.8の地 震がありました。Ms の値は先月のチリ北部地震と同じです。さらに半日後ぐらいに 同じ場所でMs7.2の地震がありました。これは時系列的には余震ですが,Ms7.8の余 震としては異常に大きいものです。一体この地震の破壊域が本震の破壊域に含まれて いるかどうか興味があるところです。 アメリカ地質調査所(USGS)による震源情報は次の通りです。 発震時刻 震央 深さ Ms ------------------------------------------------------ 本震 95/08/16 10:27:28 UT 5.7S 154.1E 33 km 7.8 余震 95/08/16 23:10:28 UT 5.7S 154.1E 71 km 7.2 ここで,IRISの広帯域遠地実体波を次の手順で解析しました。まず1個の点震 源を仮定して,そのメカニズムと深さを最小自乗法で決める。次いで,得られた最適 メカニズムを固定し,反復はぎとり法によって,1つの断層面上でのサブイベントの 時空分布を求める。 結果を図1に示します。本震,余震とも破壊パターンがよく似ています。はじ めに小破壊があり,少し小休止のあと主破壊へと進んでいます。大地震の典型的な破 壊パターンです。問題は破壊域ですが,本震では北西方向にほぼ 120〜140kmにわたる 片方向破壊伝播が得られたのに対し,余震では逆に南東方向に60kmほどの破壊伝播モ デルが得られました。いずれ余震分布で破壊域をチェックする必要がありますが,も しこの結果が正しいとすると,本震と余震の破壊域はオーバーラップしていないこと になります。 震源の深さについては,ここで得られた結果とハーバード解,USGS解の間にか なりのばらつきがあります。主な震源パラメターを表1に示します。比較のため,ハ ーバード大学のCMT解も示します。 応力降下はプレート間大地震の平均値よりかなり低目です。この地域では1971 年7月に2つの巨大地震(Mw= 8.0, 8.1)が起こっていますが,これらの地震も低目 の応力降下をもっています(Lay & Kanamori,1980,PEPI)。 表1 -------------------------------------------------------------------------- H Mo Mw メカニズム T S Δσ km 1020 Nm (strike,dip,rake) s km2 MPa -------------------------------------------------------------------------- 本震 60 4.73 7.7 (335,40,106)/(135,52,77) 60 140x60 1.5 (HRV CMT) 45 5.5 7.8 (331,57,107)/(121,37,65) 37 -------------------------------------------------------------------------- 余震 40 0.52 7.1 (324,49,104)/(123,44,74) 27 60x40 1.1 (HRV CMT) 44 0.73 7.2 (310,42, 88)/(133,48,92) 16 -------------------------------------------------------------------------- H(初期破壊の深さ),Mo(モーメント),T(破壊継続時間), S(断層面積),Δσ(応力降下) 2。中国の核実験による地震波 8月17日昼ごろ,中国での核実験のニュースが伝わってきました。USGSによ る震源は次の通りです。 発震時刻 震央 深さ mb 95/08/17 00:59:57.8 UT 41.6N 88.7E 0 km 6.1 ”何ゆえにいま核実験を”と残念な気持ちを持ちつつ,広帯域地震観測点にダイヤル アップしてみました。マグニチュード6相当ならはっきりと地震波がとらえられるも のと思ったのですが,実際には,松代や中伊豆のような静かな観測点でも,そのまま では脈動に隠れて見えません。図3は0.8Hz より低周波をカットした変位記録です。 振幅0.1〜0.2 ミクロンのP波とPcP波が見えます。残念ながら当方の観測点YCU などではノイズレベルが高いためほとんど信号が特定できません。 次に,IRISの広帯域遠地実体波記録のインバージョンを試みました。変位記録 を図4に示します。脈動成分を除くために, 0.3〜0.8 Hz より低周波成分をカットし ました。震央距離は 35〜90°の範囲です。BGIOの記録は大変きれいなのですが, 他の記録と比べて振幅が10倍もあるので,インバージョンには使いませんでした。 震源がどのような時間関数をもっているのか全く予備知識がないのですが,図4の 波形を見るかぎり,通常の自然地震と同じような時間変化をしていますので,三角形 型の震源時間関数を用いました。また,モーメントテンソルの基底として,等方成分 を含む6成分全部を用いました。 結果を図5に示します。予想どおり,等方成分Iが大部分(50%以上)のメカニ ズム解が得られました。モーメントテンソルの全成分は次の通りです。 Mij = 10.3 2.6 -1.5 [x1016 Nm] 2.6 1.1 -1.5 -1.5 -1.5 2.5 (x1,x2,x3)=(North,East,Down) 主値M1,2,3,スカラーモーメントMo,Iの値は M1,2,3 = (11.2, 2.7, 0.0) x1016 Nm Mo=(M1+M3)/2 = 5.6 x1016 Nm I=(M1+M2+M3)/3= 4.6 x1016 Nm です。また,震源時間はT=0.1s(短い!)です。もちろん,これらはT*(T/Q)の 値にかなり依存します。ここではT*=0.7sとしています。最適の深さは h=1.2 km です。 仮に,震源をr=1kmの球とすると,体積増加に対応した応力変化は Δσ=I/V=10 MPa となります。 以上が主な結果ですが,これまでこの種の震源を扱ったことがないので,得られた 解が具体的にどのような物理量を表しているのかよくわかりません。 なお,等方成分無しの束縛条件を加えた場合の解を図6に示します。あきらかに波 形の一致は悪くなります。したがって,等方成分の存在はかなりはっきりしていると 言えます。 表2 震源パラメタ H Mo(I) Mw T V Δσ ---------------------------------------------------------------- 1.2 km 5.6 (4.6) x1016 Nm 5.1 0.1 s 4 x109 m3 12 MPa