YCU地震学レポートNo.33 Nov.17,94 10月29日 房総半島沖地震 および 11月14日 フィリピン・ミンドロ島地震
やっと1つ,久しぶりに近地の地震を解析できたと思っていた矢先,また大 きな被害地震がフィリピンで起りました。今回は,まず,この11月15日未 明(現地)のフィリピン・ミンドロ島地震の遠地実体波の解析速報をお知らせ します。 1。フィリピン・ミンドロ島地震(94/11/14 19:15UT) 新聞やTVの報道によると,建物の下敷きになった人もさることながら,か なりの人(とくに子供)が津波によって命を奪われたとあります。しかるに, ハーバード大学やアメリカ地質調査所(USGS)のメカニズム解はほとんど 横ずれ型断層であり,これがどうして津波の発生につながったか,疑問に思い ました。もっとも,ハーバード大学の解はすこし正断層成分を含んでいますの で,震源の深さによっては,ある程度の津波を引き起こしても不思議ではない かも知れません。ともあれIRISの広帯域地震記録を Internet で集録し, 解析してみました。 観測波形はかなり複雑であり,マルチプルショックの様相を呈しています。 そこで,メカニズムの変化を考慮したインバージョンを行ってみました。暫定 的な解析結果を図1に示します。主な内容は以下の通りです。 震源は大きく2つの小破壊から成ります。1つ目は,ほとんど純粋な横ずれ 型,2つ目はかなり正断層成分を伴っています。前者はもう少し細かな小破壊 に分解されます。いずれも深さはかなり浅く求まります。 主な震源要素は次の通りです。断層面積は仮定した値です。 メカニズム モーメント 深さ 断層面積 くいちがい 応力降下 (str,dip,rake) Mo [Nm] H[km] S[km^2] D[m] Δσ[MPa] # 1 (341,81, 176) 5.2x10^19 7 30x15 3.8 14 # 2 (342,66,-151) 1.7x10^19 12 15x10 3.8 23 Total (340,77,-177) 6.6x10^19 8 45x15 3.8 10 (Mw=7.1) 念のため,用いた公式は D=Mo/μS (剛性率μ=30[GPa]) Δσ=2.5 Mo/S^1.5 です。 平均応力降下Δσ=10[MPa]は内陸地震の典型的な値です。津波との関連で, #2の断層の縦ずれ成分を求めると D sin 151°= 1.8[m] となり,さらにそ の鉛直成分は D sin 151°sin 66°= 1.6[m] となります。したがって,断層がごく浅ければ(海底を突き抜けていれば) 津波をひきおこしても不思議ではなさそうです。これにつきましては,どなた か専門家のコメントをお伺いしたいところです。 2。房総半島沖地震(94/10/29 23:43JST) 防災科学技術研究所の新観測点,CHS(銚子)が威力を発揮しはじめまし た。これまでメカニズムの決めにくかった房総半島沖の地震も,この観測点の 記録を加えることによって,ピタリと決まります。これがその典型例です。 10月29日深夜の地震について,防災科学技術研究所による震源情報は次 の通りです。 発震時 94/10/29 23:43:06.85 M 4.9 位置 震央 34.873N 140.751E 深さ 71.3km はじめ,CHU,TOK,TYM,YCUの記録を用いてインバージョンを 行ったところ,観測点の重みを少し変えるだけで,いろいろなメカニズムが得 られ,解が不安定でした。しかしこれにCHSの記録を加えたところ,解は完 全に安定しました。 得られた結果を図2に示します。概ね単一の断層で良いのですが,P波節面 上の近傍に位置するCHUの波形を基にして,2つのサブイベントを抽出しま した。主な震源パラメターは次の通りです。 メカニズム モーメント 深さ 継続時間 (str,dip,rake) Mo [Nm] H[km] τ[s] # 1 (135,64,18) 2.0x10^16 71 # 2 (135,76,22) 1.5x10^16 71 Total (135,70,20) 3.5x10^16 0.60 (Mw=5.0)