EIC地震学ノート No.41                  Apr.9, 98

東大震研情報センター

◆遠地実体波解析(改訂版98/06/25)◆ -----------------------------------

3月25日南極大陸近くの巨大地震(Ms 8.0)

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● 概略・特徴: 大変珍しい巨大地震が南極大陸近傍で起こりました。。新聞報道
によると、昭和基地では揺れを感じなかったが、震源から約700kmも離れたフランス
の基地で、棚から物が落ちるほどの揺れであったとのことです。USGSの速報(QED)
による震源諸元は次の通りです。

  発生時刻          震央         深さ   マグニチュード
 03:12:24.7 UT   62.876°S  149.712°E   10 km     8.0  (Ms)

● データ処理: IRIS-DMCのデータを地震研究所の準リアルタイムサービス (gopher)
により収集しました。解析には16地点の広帯域地震計記録(P波上下動16, SH成分12)
を用いました。
●結果:解析結果を図1に示します。ほとんど純粋な横ずれ型のサブイベントから成
る多重震源です。2つのクラスターに分かれます。1つは初めの40秒間で、初期破壊
点から西へ約50kmの範囲、もう1つは70〜85秒間で、初期破壊点から120-140kmほど
西方に位置します。主な震源パラメタは以下の通りです。

 走向、傾斜、すべり角(全体)=  (287, 87, -1) (東西走向の左横ずれ)
 地震モーメント     Mo  =  2.0 x10**21 Nm  (Mw = 8.1)
  破壊継続時間      T = 94 s 
 深さ(Centroid)      H = 25-40 km
 断層の長さ、幅     L ≒140 km、W ≒40 km
 平均くいちがい     D = Mo /μ(L x W) = 5.6 m
 応力降下        Δσ = 2.5 Mo/ S**1.5 = 12 

●解釈その他:1つ目のクラスターについては、2つのP波節面のうち東西走向の面
が断層面と推測されます。この場合、左横ずれとなります。2つ目のクラスターの
断層面はどちらかわかりませんが、初期破壊点から140kmほど西に位置することから、
全体として破壊が西方に進んだと考えられます。平均くいちがい量は約6m ですが、
i不均一性を考えると、場所によっては10mを超えていると思われます。
 この巨大地震の最も注目すべきは断層メカニズムです。もよりのテクトニック図を
見るかぎり、震央近傍にそれらしきツメ跡(トランスフォーム断層など)が全く記さ
れていないこと、また、強いて数百km遠くのトランスフォーム断層と関係付けようと
すると、押し引き分布はほぼ正反対です。
 地震の規模が小さければ「例外的」とか「ばらつきの範囲」で片付くのですが、こ
れはれっきとしたM8の巨大地震です。何とか英知を絞って、この地震のメカニズムの
意味するところを解明したいところです。
                            (文責:菊地・山中)

改訂(1): 初版で"昭和基地が有感という報道があった"と書いたのは当方のまちがい
 でした。訂正が遅れ、関係者の方々にご迷惑をおかけしましたことをおわび申し上
 げます。(98/04/27)
改訂(2): 暫定解においては、参照点をUSGSの震央より100kmほど西に取っていまし
 た。今回はUSGSの震央を用いました。(98/06/25)