EIC地震学ノート No.14                Mar. 1, '97

東大震研情報センター

◆遠地実体波解析◆ ----------------------------------------------------

2月27日 パキスタンの地震 ( Ms 7.3 )

-----------------------------------------------------------------------

● 概略・特徴: グリニッジ時で2月27日21時8分(日本時間では28日6時
8分)、パキスタンで Ms7.3[USGS] の地震がありました。今のところ死者数十名以
上が出ているもようです。この近くでは1935年にM7.5の地震があり、ケッタ市 
(Qetta) を中心に死者が3万人に達したと言われています(USGS の地震情報)。

USGSの速報震源は以下の通りです。
  発生時刻          震央         深さ   マグニチュード
 21: 08: 02.4 UT   29.90°N  68.1°E    normal     7.3  (Ms)

● データ処理: IRIS-DMCの準リアルタイムサービスにより広帯域地震計記録を集め
ました。 観測点の方位分布は概ね良好です。解析には16地点のP波上下動を用いまし
た。震源近傍の構造として、2 層から成る厚さ40kmの地殻、その下に半無限のマント
ルを置きました。波形は明瞭なマルチプルショックを示しています。そこで、メカニ
ズムの変化を考慮し2個の震源を仮定して、最適のメカニズムと震源の深さを決め、
次に各々の震源時間関数を決め直しました。

●結果: 解析結果を図1に示します。2つの小破壊ともメカニズムはほぼ北に傾斜
した低角逆断層(または南に傾斜した高角逆断層)です。深さは19km。2番目のサブ
イベントが相対的に南側 10~20 km の位置に来ます。分解能はよくありませんが、仮
にこれが正しいとすると、低角面が断層面と考えられます。主な震源パラメタは次の
通りです。

   サブイベント 走向、傾斜、すべり角 Mo             破壊継続時間  
   -------------------------------------------------------------------
    #1           (266, 21, 90 )        0.76                  9 s
    #2            (277,  9, 90 )        1.8                  15 s 
   -------------------------------------------------------------------
   Total          (274, 13, 91)         2.5x10**19Nm         21 s 
                    ( Mw = 6.9 )
   深さ            H = 19 km

地震モーメントはERI のCMT解(Mw6.9)と調和的ですが、ハーバードのCMT解
(Mo=4.3x10**19Nm)よりは小さめです。

● 解釈: 震源はアフガニスタン国境の近くの山岳地帯に位置するようです。この
小規模な山脈の下での低角逆断層と考えられますが、これが『プレート間地震』の範
疇に入るのかどうか私にはわかりません。なお、地震モーメントは兵庫県南部地震の
それとほぼ同じです。しかしあきらかに破壊継続時間が長く、ほぼ2倍です。このこ
とは今回の地震が兵庫県南部地震の応力降下より約1桁(2**3=8)小さいことを示しま
す。                           (文責:菊地正幸)
                                           e-mail: kikuchi@eri.u-tokyo.ac.jp