EIC地震学ノート No.8                     Nov. 21, '96                            東大震研情報センター

◆遠地実体波解析◆ ---------------------------------------

 11月20日 房総半島南東沖の地震 (Mj 6.0)

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●概略・特徴: 11月20日11時27分(日本時間)、房総半島南東沖を震源と
する地震があり、三宅島で震度3を記録しました。気象庁とUSGSの速報震源は以下の
通りです。深さに多少の開きがあります。震央はトリプルジャンクション(三重会合
点)の近くです。
           震央            深さ     マグニチュード
気象庁 34.4°N     141.2°E     40 km     6.0 (Mj)
USGS    34.4°N     141.1°E     26 km     5.5 (Ms)

●データ処理: IRIS-DMCの準リアルタイムサービスにより広帯域地震計記録を集め
ました。 観測点の方位分布は良好でしたが、ノイズに埋もれた記録が多く、実際に
使ったデータは10地点のP波上下動のみです。震源近傍の構造として、水深3kmの海水
層と厚さがそれぞれ 2km,10kmの堆積層と地殻、その下に半無限のマントルを置きま
した。観測波形は大変複雑で、メカニズムの変化を伴うマルチプルショックの様相を
呈しています。そこで、メカニズムの変化を考慮したインバージョンにより、2つの
小破壊を決めました。

●結果: 解析結果を図1に示します。とりあえず、2つの横ずれ断層(少し正断層
成分を伴う)から成る解が得られました。震源の深さHをいろいろ変化させてインバ
ージョンしたところ、H=23km とH=59kmに残差の極小があります。ここではわずかに
残差の小さい、浅い震源の解を示しました。なお深い震源解の場合には、横ずれ型と
逆断層型の2つのサブイベントが得られます。図1の解の主な震源パラメタは次の通
りです。
   サブイベント 走向、傾斜、すべり角    Mo   T   
    #1              (323, 74, -7)      1.2   5 s
    #2                (110, 80, -29)     0.9   5 s
   Total              (312, 81, 11)      1.7  10 s
                  Mo = 地震モーメント、T = 破壊継続時間
    断層面積                  S =  20 x 10 km**2
    深さ            h  = 23 km
    食い違いの大きさ        D  =  Mo/μS = 1.3 m  (μ= 64 GPa)
    応力降下           Δσ =  2.5 Mo/S**1.5 = 15 MPa

●解釈:観測波形は大変複雑です。一応2つのサブイベントを求めましたが、これだ
けではまだ観測波形が説明できません。トリプルジャンクションといった複雑な構造
の影響で破壊過程だけでなく波形自体も複雑になっているもの思われます。いずれ今
後の検討課題です。平均的応力降下(Δσ)は高めであること及び横ずれ型であるこ
とからプレート内地震と考えられますが、そのテクトニックな意味はよくわかりませ
ん。                                                     (文責:菊地正幸)