東大震研情報センター
(1)11月06日 小笠原の地震 (Ms 6.6)
(2)11月12日 ペルーの地震(Ms 7.3)
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少し遅くなってしまいましたが、2つの地震の解析結果を報告します。いずれも顕 著なマルチプルショックです。時空間分布を詳細に調べてみる価値がありそうな地震 です。 (1)11月06日 小笠原の地震 (Ms 6.6) ●概略・特徴: 11月06日20時01分(日本時間では11月07日5時1分) 小笠原諸島の近海を震源とする浅い地震があり、父島で震度3のほか、東京、横浜 でも震度1を記録しました。気象庁とUSGSの速報震源は以下の通りです。マグニチュ ードに相当の開きがあります。震源は海溝近くのOuter-rise に位置します。 震央 深さ マグニチュード 気象庁 28.4°N 143.7°E 20 km 5.8 (Mj) USGS 28.07°N 143.74°E 6 km 6.6(Ms) ●データ処理: IRIS-DMCの準リアルタイムサービスにより広帯域地震計記録を集め ました。 観測点の方位分布は良好です。24地点のP波上下動のみでインバージョンを 行いました。震源近傍の構造として、水深4kmの海水層と厚さ10kmの地殻、その下 に半無限のマントルを置きました。波形インバージョンでは、まず断層メカニズムを 決め、次に断層面を固定して、サブイベントの時空分布を求めました。 ●結果: 解析結果を図1に示します。メカニズムは典型的な正断層です。深さは約 15kmです。震源は小破壊に始まり南へ約10 km 行ったところで主破壊が起りました。 Mwは6.4です。主な震源パラメタを下に示します。 走向、傾斜、すべり角 = (347, 54, -69) /(133, 41, -117) 地震モーメント Mo = 5.4 x 10 **18 Nm (Mw = 6.4) 破壊継続時間 T = 7 s 断層面積(サブイベントの範囲) S = 12 x 6 km**2 深さ h = 15 km 食い違いの大きさ D = Mo/μS = 1.2 m (μ= 64 GPa) 応力降下 Δσ = 2.5 Mo/S**1.5 = 22 MPa ●解釈:主破壊の破壊継続時間は約4秒と短く、局所的な応力降下はかなり大きいこ とを示しています。平均的応力降下(Δσ)も高めです。Outer-rise の正断層型( 水平引っ張り型)プレート内地震です。2つのP波節面のうち東斜面を断層面とする 場合の方が波形の一致は良くなります。 (2)11月12日 ペルーの地震(Ms 7.3) ●概略・特徴:11月12日17時(現地時間12日正午)、ペルーリマ市の南東約400km 付近で大きな地震がありました。報道によると、倒れた家の下敷きになるなどで少 なくとも7人(または15人)が死亡、また、800人が鉱山に閉じ込められたという情報 もあるとのこと。USGSの震源諸元は以下の通りです。 震央 深さ マグニチュード USGS 14.9°S 75.49°w 39 km 7.3 (Ms) 現地ペルー地球物理研究所による震源は、Mが6.4、深さが86 kmと報道されています。 ●データ処理: IRIS-DMCの準リアルタイムサービスにより広帯域地震計記録を集め ました。 観測点の方位分布は、南側が手薄で、あまり良くありません。10地点のP波 上下動と5地点のSH波を用いました。震源近傍の構造として、水深3kmの海水層と厚 さ10kmの地殻、その下に半無限のマントルを置きました。波形インバージョンでは まず断層メカニズムを決め、次に断層面を固定して、サブイベントの時空分布を求 めました。 ●結果: 解析結果を図2に示します。メカニズムは典型的な低角逆断層です。深さの範 囲は15‾40 kmです。Mwは7.7です。破壊は南方に向かって進み、3連発のマルチプル ショックでした。波形の一致は、SH波が少し良くありませんが、全体としてはほぼ満 足のいくものです。主な震源パラメタを下に示します。 走向、傾斜、すべり角 = (338, 34, 74) 地震モーメント Mo = 4.2 x 10 **20 Nm (Mw = 7.7) 破壊継続時間 T = 47 s 断層面積(サブイベントの範囲) S = 100 x 50 km**2 深さ(初期破壊点 h = 26 km 食い違いの大きさ D = Mo/μS = 1.3 m (μ= 64 GPa) 応力降下 Δσ = 2.5 Mo/S**1.5 = 3.0 MPa ●解釈: ナスカプレートの潜り込みによる典型的なプレート間地震と思われます。 95年7月30日のチリ北部の地震(Mw8.1)(YCUレポート#43参照)、本年2月 21日のペルーの津波地震(Mw 7.4)(YCU レポート#52参照)と同様に、破壊は 南方に向かって進みました。そう言えば、あの歴史的巨大地震である60年チリ地震 も破壊は南方へ向かって進みました。ナスカプレートの潜り込みではすべて南へ破壊 が伝播するのかと思いきや、79年のコロンビア地震はどうやら逆らしい。しかしや はり、種子島近海の地震と日向灘の地震の場合と同じように、2月と今回のペルー地 震も、あたかも“もぐらが地下を動いていて、時々顔を出しては地震を引き起こす” といった感じがします。 (文責:菊地正幸)