EIC地震学ノート No.7                     Nov. 15, '96

                            東大震研情報センター

◆遠地実体波解析◆ ---------------------------------------

 (1)11月06日 小笠原の地震 (Ms 6.6)

 (2)11月12日 ペルーの地震(Ms 7.3)

--------------------------------------------------------


 少し遅くなってしまいましたが、2つの地震の解析結果を報告します。いずれも顕
著なマルチプルショックです。時空間分布を詳細に調べてみる価値がありそうな地震
です。

(1)11月06日 小笠原の地震 (Ms 6.6)

●概略・特徴: 11月06日20時01分(日本時間では11月07日5時1分)
小笠原諸島の近海を震源とする浅い地震があり、父島で震度3のほか、東京、横浜
でも震度1を記録しました。気象庁とUSGSの速報震源は以下の通りです。マグニチュ
ードに相当の開きがあります。震源は海溝近くのOuter-rise に位置します。
            震央           深さ     マグニチュード
気象庁 28.4°N      143.7°E     20 km     5.8 (Mj)
USGS   28.07°N    143.74°E       6 km     6.6(Ms)

●データ処理: IRIS-DMCの準リアルタイムサービスにより広帯域地震計記録を集め
ました。 観測点の方位分布は良好です。24地点のP波上下動のみでインバージョンを
行いました。震源近傍の構造として、水深4kmの海水層と厚さ10kmの地殻、その下
に半無限のマントルを置きました。波形インバージョンでは、まず断層メカニズムを
決め、次に断層面を固定して、サブイベントの時空分布を求めました。

●結果: 解析結果を図1に示します。メカニズムは典型的な正断層です。深さは約
15kmです。震源は小破壊に始まり南へ約10 km 行ったところで主破壊が起りました。
Mwは6.4です。主な震源パラメタを下に示します。

    走向、傾斜、すべり角 =      (347, 54, -69) /(133, 41, -117)
    地震モーメント         Mo = 5.4 x 10 **18 Nm  (Mw = 6.4)
    破壊継続時間          T = 7 s    
    断層面積(サブイベントの範囲)  S =  12 x 6 km**2
    深さ               h  = 15 km
    食い違いの大きさ            D  =  Mo/μS = 1.2 m  (μ= 64 GPa)
    応力降下               Δσ =  2.5 Mo/S**1.5 = 22 MPa

●解釈:主破壊の破壊継続時間は約4秒と短く、局所的な応力降下はかなり大きいこ
とを示しています。平均的応力降下(Δσ)も高めです。Outer-rise の正断層型(
水平引っ張り型)プレート内地震です。2つのP波節面のうち東斜面を断層面とする
場合の方が波形の一致は良くなります。


 (2)11月12日 ペルーの地震(Ms 7.3)

●概略・特徴:11月12日17時(現地時間12日正午)、ペルーリマ市の南東約400km
付近で大きな地震がありました。報道によると、倒れた家の下敷きになるなどで少
なくとも7人(または15人)が死亡、また、800人が鉱山に閉じ込められたという情報
もあるとのこと。USGSの震源諸元は以下の通りです。

            震央        深さ     マグニチュード
USGS   14.9°S    75.49°w     39 km     7.3 (Ms)

現地ペルー地球物理研究所による震源は、Mが6.4、深さが86 kmと報道されています。

●データ処理: IRIS-DMCの準リアルタイムサービスにより広帯域地震計記録を集め
ました。 観測点の方位分布は、南側が手薄で、あまり良くありません。10地点のP波
上下動と5地点のSH波を用いました。震源近傍の構造として、水深3kmの海水層と厚
さ10kmの地殻、その下に半無限のマントルを置きました。波形インバージョンでは
まず断層メカニズムを決め、次に断層面を固定して、サブイベントの時空分布を求
めました。

●結果: 解析結果を図2に示します。メカニズムは典型的な低角逆断層です。深さの範
囲は15‾40 kmです。Mwは7.7です。破壊は南方に向かって進み、3連発のマルチプル
ショックでした。波形の一致は、SH波が少し良くありませんが、全体としてはほぼ満
足のいくものです。主な震源パラメタを下に示します。

    走向、傾斜、すべり角 =      (338, 34, 74)
    地震モーメント         Mo = 4.2 x 10 **20 Nm  (Mw = 7.7)
    破壊継続時間          T = 47 s    
    断層面積(サブイベントの範囲)  S =  100 x 50 km**2
    深さ(初期破壊点         h  = 26 km
    食い違いの大きさ            D  =  Mo/μS =  1.3 m  (μ= 64 GPa)
    応力降下               Δσ =  2.5 Mo/S**1.5 = 3.0 MPa

●解釈: ナスカプレートの潜り込みによる典型的なプレート間地震と思われます。
95年7月30日のチリ北部の地震(Mw8.1)(YCUレポート#43参照)、本年2月
21日のペルーの津波地震(Mw 7.4)(YCU レポート#52参照)と同様に、破壊は
南方に向かって進みました。そう言えば、あの歴史的巨大地震である60年チリ地震
も破壊は南方へ向かって進みました。ナスカプレートの潜り込みではすべて南へ破壊
が伝播するのかと思いきや、79年のコロンビア地震はどうやら逆らしい。しかしや
はり、種子島近海の地震と日向灘の地震の場合と同じように、2月と今回のペルー地
震も、あたかも“もぐらが地下を動いていて、時々顔を出しては地震を引き起こす”
といった感じがします。                                    (文責:菊地正幸)