EIC地震学ノート No.2      Sep. 11,'96

                         東大震研情報センター

◆遠地実体波解析◆ -------------------------------------------

 (1)9月11日 銚子沖の地震(Mj 6.6)

 (2)6月17日 フローレス島の深発地震(Mw 7.9)

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(1)9月11日 銚子沖の地震(Mj 6.6)
●概略・特徴: 9月11日11時37分、銚子の沖合いを震源とする地震がありま
した。多くの人が“ゆっくりした振動がいつまでも続いた”と感じたようです。気象
庁による震源情報は
   深央 35.7 N  141.3 E  深さ 30 km  Mj = 6.6
で、千葉と銚子で震度4を観測したほか、北海道から近畿まで広い範囲で有感でした。
またこの地震で気象庁は太平洋沿岸に津波注意報を発令し、約1時間後に解除しまし
た。その後、津波と思われる海面変動は見られなかったようです。

●データ処理:   IRIS のDMCから14地点の広帯域記録(P波上下動のみ)を収集
しました。このうちノイズレベルの高い2点の記録を除外しました。一見したところ
波形は大変複雑です。観測点近傍の構造として、海水層 3km、堆積層2kmを加えました。

●結果: 解析結果を図1に示します。必ずしも波形の一致はよくありませんが、
はじめの数秒間を見る限り、破壊は単純で、主破壊はほぼ3秒で完了したと思われま
す。主な震源パラメタを下に示します。
 (走向、傾斜、すべり角)=       (132, 63, -50) / (250, 47, -141)
                    横ずれ成分を含む正断層(南北引っ張り)
    地震モーメント         Mo =  1.5 x 10 **18 Nm    (Mw = 6.1)
    破壊継続時間(主部)      T = 3 s    
    断層面積(両方向破壊2.5 km/s) S = 10 x 5 km**2
    深さ(初期破壊点)        h  = 59 km
    食い違いの大きさ               D  =  Mo/μS = 0.42 m  (μ= 72 GPa)
    応力降下                   Δσ =  2.5 Mo/S**1.5 = 11 MPa

●解釈: 震源の位置(深央と深さ)、メカニズム、応力の大きさのいずれも、この
地震がプレート内部のずれ破壊であることを示しています。ただし、応力軸の方向は
プレートの傾斜方向ではなく、むしろ南北寄りに向いています。また横ずれ成分がか
なりあります。これらをどう解釈するか、いま少し考えて見ようと思います。

●その他の注目点: 15,6秒付近にはっきりした相が見えます。これが反射相なのか、
震源に起因するのか、いまのところよくわかりません。

(2)6月17日 フローレス島の深発地震(Mw 7.9)
●概略・特徴: だいぶ前の地震ですが、時間がなくて preliminary な処理だけし
てそのままになっていたものです。れっきとした深発の巨大地震ですが、94年にボ
リビア巨大地震が起こったために、少し過小評価されているのではないでしょうか。
USGS の震源情報は次の通りです。
   深央 7.1 S  122.6 E   深さ 585 km  Mj = 7.2  mb = 7.5

●データ処理:   IRIS のDMC から16地点の広帯域記録(1 s サンプルの LP 上下
動記録のみ)を収集しました。一見したところ波形は方位によってかなり異なり、
メカニズムの変化を伴うマルチプルショックの様相を呈しています。破壊の範囲や伝
播方向を決めるために、直達P波だけでなく、pP波、 sP波 まで含む範囲(240秒)
を使いました。

●結果: メカニズムの変化を考慮した波形インバージョンで、2つのサブイベント
を抽出しました。当初の予想と違って2つのサブイベントのメカニズムはほとんど同
じでした。ただ、破壊伝播速度がこれまでのものに比べてずっと大きい(約5km/s)
のが特徴です。解析結果を図2に示します。主な震源パラメタは次の通りです。

 (走向、傾斜、すべり角)=    (107, 63, -47)
               横ずれ成分を含む正断層(南北引っ張り)
    破壊伝播        西から東へ約 60 km
    地震モーメント    Mo =  7.8 x 10 **20 Nm    (Mw = 7.9)
    破壊継続時間(主部) T = 17 s    
    断層面積       S = 60 x 30 km**2
    深さ(初期破壊点)     h  = 595 + 10 km
    食い違いの大きさ     D  =  Mo/μS = 3.0 m  (μ= 140 GPa)
    応力降下        Δσ =  2.5 Mo/S**1.5 = 26 MPa

●解釈: 破壊伝播の方向から、2つのP波節面のうち東西方向に走向を持つ面が断
層面と考えられます。この破壊伝播の方向は sP波の到達時刻の方位依存性からも明
らかです(例えばHNR や LSA のsP 走時を比較)。

●その他の注目点: CHTO やTAU など、比較的近い観測点のpP相がうまくモデ
リングできていません(久家さん@京大のコメント)。これは合成記録を計算におい
て、震源近傍で平面平行層を仮定しているためと思われます。地震が深く、かつ、
観測点が近い場合、もはや地表を平面で近似してはいけないということでしょう。
                                                           (文責:菊地正幸)