東大震研情報センター
(1) 9月5日 鳥島近海の地震 (Ms 5.2)
(2) 9月5日 イースター島の地震 (Ms 7.1)
(3) 9月6日 台湾沖の地震 (Ms 6.6)
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(1) 9月5日 鳥島近海の地震 (Ms 5.2) ●概略・特徴: 日本時間で9月5日03時15分ごろ、鳥島近海でMj 6.2 (Ms 5.1‾5.2)の地震が発生しました。この地震では地震の規模から推定されるものよ りずっと大きな津波(八丈島 26cm、三宅島16cmなど)が発生しました。津波 マグニチュードMt は7.5 です(阿部による)。Ms とMt の大きな差はこの 地震が“津波地震”であることを示しています。 津波地震の1つの震源モデルとして“ゆっくり地震”の存在が確かめられてい ます。しかしこの地震の遠地実体波(P波、S波)をみる限り、そのようなゆっ くりした破壊の兆候はありません。したがって、津波の源として考えられるのは、 海底地滑りのような2次的破壊源や、地下浅部へのマグマの貫入などのような津 波(海底変動)に効率的な源です。これらを念頭において、実体波を解析しまし た。 なお1984年6月13日にも今回とほぼ同じ場所で似たような地震が起こっ ています。これについてはSatake & Kanamori (1991, JGR) や Kanamori et al. (JGR, 1993)によって解析され、津波発生のメカニズムに ついても詳しく検討されています。以下の結果は、今回の地震が定性的のみなら ず定量的にも、前回の地震と驚くほど似ていることを示しています。 ●データ: IRIS-DMCの準リアルタイムサービスにより6地点の広帯域地震計記 録を集めました。SNはあまりよくありませんが、観測点の方位分布は良好です。 P波上下動、SH波あわせて12記録を用いました。 ●結果: 図1に実体波の解析結果を示します。左から順に、[a] 等方成分 (体積の増減)を含む一般の震源の解 [b] 等方成分無しの条件で求めた解 [c] 断層を仮定したメカニズム解 です。 得られたモーメントテンソルの各成分を下に示します。単位はいずれも [x10**17 Nm] 、座標軸は (x1, x2, x3) = (North, East, Down)です。 [a] [b] [c] ------------------------------------------------------------------------ Mij -5.1 0.2 -1.0 -4.4 0.0 -1.0 -5.8 1.6 -0.9 0.2 -3.0 0.0 0.0 -2.2 0.0 1.6 -0.4 0.1 -1.0 0.0 6.5 -1.0 0.0 6.6 -0.9 0.1 6.2 ---------------------------------------------------------------------------- 主値 6.6 -3.0 -5.2 6.7 -2.2 -4.5 6.3 0 -6.3 断層解 (走向, 傾斜, すべり角) = (73, 41, 88) (a)と(b) はマグマ貫入型のメカニズム(いわゆるCLVD : Conpensated Linear Vector Dipole) を示しています。断層解は観測波形を概ね説明できるのですが、 全体的なS波の小ささと相容れないように見えます(例えばULNのSH)。 ●解釈: 上の結果から今回の津波地震はマグマ貫入が関係している可能性がか なり大きいと思われます。(a) で得られた等方成分(I)は必ずしも有意ではあり ません。標準偏差を含めて表わすと I= −(6±6)x 10**16 [Nm] (−は収縮を意味する) です。 (b)の解で、M33成分から上下動を推定してみます。ポアッソン物体を仮定 し、体積の増減無しの条件で、面積Sの範囲で上下にΔhだけ伸びる(横方向には縮 む)とすると次式が成り立ちます。 M33 = 2μΔh S この ΔV=(Δh S)が津波の発生源の大きさを規定するファクターです。 μ=3x10**10 Pa とすると ΔV = 6.6 x 10**17 / 2μ ≒ 10 ** 7 [m**3] となります。10km四方で 0.1 m の隆起に相当します。もちろんμが小さけ れば(柔らかければ)もっと大きな値になります。このような考察は Satake & Kanamori (1991) や Kanamori et al. (1993) でなされています。 ●その他の注目点: 上の解を含め、USGSやHarvard などいろいろな機関か らから出された“断層解”は、逆断層タイプということではいずれも一致してい ますが、断層の走向は互いに大きく異なっています。また、今回の実体波インバ ージョンでは走向の決定が不安定です。 これは、もともと震源が断層型ではなく、 マグマ貫入型であると考えればうなずけることです。 (2) 9月5日 イースター島の地震 (Ms 7.1) ●概略・特徴: 鳥島近海の地震を解析しているとき、USGSの震源速報(QED) が入りました。発生時刻は9月5日08:18UT(日本時間17:18)、Ms が7.1 ということで津波のことも気になり、さっそく実体波の解析を行いました。 ●データ: IRIS -DMC からP波上下動のみ14地点の記録を収集しました。 まず変位記録に直した観測波形で長周期成分の有無をチェック。無いことを確か めました。 ●結果: 遠地実体波の解析結果を図2に示します。主な震源パラメタは次の通 りです。 (走向、傾斜、すべり角)= (262, 32, 63) / (113, 62, 105) 地震モーメント Mo = 8.0 x 10 **18 Nm (Mw = 6.5) 破壊継続時間(主部)T = 8 s 深さ(初期破壊点) h = 10 km (3) 9月6日 台湾沖の地震 (Ms 6.6) ●概略・特徴: このノートを作成している最中に、今度は気象庁から速報が入 りました。日本時間で9月6日朝08時40分ごろ台湾近海でMj 6.8 の地震が 発生とのこと。さっそく IRIS-DMC にコネクトして広帯域記録を取ろうとスタ ンバイしました。実際に記録が手に入ったのが正午少し前、地震発生からほぼ3 時間後でした。 ●データ: IRIS -DMC から7地点のP波上下動及びSH波を用いました。波 形は、この地震が2、3個の小破壊から成るマルチプルショックであることを示 しています。そこでまず、メカニズムの変化を許したインバージョンにより、断 層メカニズム及び重心の深さを決め、次にメカニズムを固定して、サブイベント の時空間分布を求めました。 ●結果: 最終的な解析結果を図3に示します。主な震源パラメタは次の通りで す。 (走向、傾斜、すべり角)= (209, 40, 116) 地震モーメント Mo = 2.1 x 10 **19 Nm (Mw = 6.8) 破壊継続時間(主部)T = 16 s 深さ(初期破壊点) h = 30 ± 6 km 断層面積 S = 30 x 15 km**2 食い違いの大きさ D = Mo/μS = 0.78 m (μ= 6 0GPa) 応力降下 Δσ = 2.5 Mo/S**1.5 = 5.4 MPa ●解釈: 2つのP波節面のどちらをとっても傾斜角は40度程度です。また応 力降下は海溝沿いのプレート間地震とすると少し大きすぎるように見えます。 (文責:菊地正幸)