EIC地震学ノート No.84                  Jul. 19, 00
東大震研情報センター

◆地震波解析◆ ---------------------------------------

  7月14日三宅島近傍の長周期地震のメカニズム

----------------------------------------------------


● 概略・特徴: 7月14日午前4時頃の山頂噴火に先立ち、2時12分ごろに三
宅島近傍を震源とする長周期(約50秒)の地震動が広帯域地震計によって観測され
ました。その後、振幅は様々ですが、似たような現象が繰り返し見られました。7
月8日夕方の噴火に伴った長周期の地震動については、EICノートNo.82で取り上げ
ていますが、それとは少し異なる様相を呈しています。噴火に至らないか、あるい
は、噴火現象の影響の少ない地下の変動を表しているものと考えられます。

●データ処理: 防災科学技術研究所のFREESIA観測点から、館山(TYM)、中伊豆
(JIZ)、都留(SGN)の広帯域地震計記録を集めました。これに周期10-100秒のバンド
パスフィルターをかけ、変位記録に変換しました。解析にあたっては、2種類の震
源モデルを用いました。1つは体積成分を含む全6成分のモーメントテンソル源
(モデル1)、もう1つは鉛直方向の力源(モデル2)です。

●結果:
<モデル1>
図1に結果を示します。メカニズム解は全方位「押し」(体積膨張)を表しています。
主な震源パラメータは次のとおりです。

 震源時  02:12:13 JT
 モーメントテンソル  Mij = ( 2.5  -0.7 -0.4
               -0.7   2.9  1.6
               -0.4   1.6  3.7)  [x10**17Nm]
     i,j=1(North),2(East),3(Down)
 等方成分     I= 3.0x10**17 Nm  (Mw = 5.6相当)
 体積膨張    ΔV = I/k = 6x10**6 [m**3]  (体積弾性率 k=50GPa) 
  震源継続時間   T = 40 s
 震源の深さ    H = 約2 km

<モデル2>
 結果を図2に示します。継続時間が30秒間の鉛直上向きの力が得られましたが、
観測波形と理論波形の一致はよくありません。主な震源パラメータは次の通りです。

 震源時   02:12:19 JT
 力積の最大値 Ft = 2.9x10**12 Ns(ニュートン・秒)
 移動流体の質量 M = Ft/v(平均移動速度をv=50m/sと仮定)
          = 約6x10**10 [kg]
 移動流体の体積 V = M/ρ = 約3x10**7 [m**3]

●解釈その他: 震源は体積膨張を主とするモーメントテンソルでかなりよく説明で
きます。膨張の原因が何かということが問題ですが、我々は「高温部に流れ込んだ
地下水が水蒸気となって急激に周りを押し広げる」ことで説明がつくのではないか
と考えています(図3)。また、傾斜計記録が示す変動(急激な山体上昇と
その後のゆっくりした緩和変動)は割れ目を伝わって気体が抜けることと水蒸気が
水に戻る過程で説明できないかと考えています。
 一方、マグマの逆流が起っているという説があります。モデル2の解析はそれを
念頭においたものですが、結果を見る限り、それだけで長周期の地震源を説明する
ことは困難なようです。        (文責:菊地・山中)