EIC地震学ノート No.76                  Apr.6, '00

東大震研情報センター

◆近地波形解析◆ --------------------------------------

  4月1日有珠山周辺の地震(Mj4.6)

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● 概略・特徴: 4月1日未明、有珠山近傍でごく浅い地震がありました。今回の
 有珠山噴火に関連した地震としてはこれまでの最大規模です。壮瞥温泉に設置され
 た気象庁の臨時観測点(計測震度計)で震度5弱を観測したほか、伊達市で震度4
 を記録しました。気象庁の速報震源は次の通りです。

  発生時刻         震央         深さ    M
 03:12:23.2 (JT)   42.505°N  140.829°E    7 km  4.6

●データ処理:2観測点(FreesiaのHSS(札幌)およびERIOSのKKJ(上ノ国))の
 広帯域地震計記録を収集し、変位波形に変換しました。理論波形の合成に用いた地
 下構造は以下の通りです。

	Vp	Vs	 ρ	上面深度	
	2.8km/s	1.50km/s 2.1cgs	   0km
	5.0	2.85	 2.4	   0.5
	6.0	3.47	 2.6	   3.0
	6.5	3.76	 3.0	  16.0
	7.79	4.50	 3.27	  25.0

● 結果: 結果を図1に示します。主な震源パラメータは次のとおりです。

 走向、傾斜、すべり角 =  (197, 43, 62)
               北西-南東圧縮の逆断層
 地震モーメント  Mo  =  1.5 x10**16 Nm  (Mw = 4.7)
  破壊継続時間(主破壊) T  = 0.8 s
 深さ          H =  5 km
 断層長 (双方向伝播,v=2.5km/s,破壊伝播時間0.4sを仮定) L = 2km
 断層面積 (幅W=L/2を仮定) S = LxW = 2kmx1km
 食い違い       D = Mo / μS = 0.25m (μ=3.1GPa)
 応力降下      Δσ = 2.5 Mo/ S**1.5 = 14 MPa

● 解釈その他:当初、火山噴火に関係した地震ということで、通常の断層タイプ
 の地震とは違ったメカニズムを持つのではないかと考え、等方成分を含む一般的
 なモーメント・テンソル解を求めてみました。この結果は図の左下に示してあり
 ます。体積収縮成分を40%ほど含む解です。しかしこの解が断層解に比べて観測
 波形との一致が有意に優れているとは言えません。
  また、当初、マグマの熱で岩石強度が弱くなり応力降下が小さくなるのではな
 いかと考えましたが、得られた応力降下は通常の地震と同程度(むしろやや高め)
 でした。少なくともこの地震の発生場所・発生時点では、岩盤は脆性的であった
 ことを示唆していると考えられます。
   なお、震源の深さ(5km)は、少々構造を変えても変わらないという意味で、か
 なりrobustです。
                         (文責:菊地・山中)