3.3.2 観測システム高度化のための新技術の開発

 GPS 観測網のもたらしつつある成果の意義は、日本列島という複雑不均質な系の変形を広域的にかつ連続的にモニターでき、それをプレートの相互作用モデルの検証・改善に使えるということであろう。逐次的に実行できるし、局所的なモデルの検証の場所決めにも役立つ。これまでの前兆現象のようなローカルな変動の観測例はその一般性の検証あるいは説得力ある説明が困難であった。これを克服するには、全国変動マップと局所変動マップを連関させなければならない。地震予知に必要な観測は、対象とする断層・ブロック・セグメントが地震サイクルのどのレベルにあるかの診断に役立つデータを提供することである。この観点から、今後10年程度で開発が望まれる新技術を以下に述べる。端的には、海域のようにアクセス困難だが変動の大きい場の特性を明らかにしつつ、地殻深部のように変動の小さい信号検出困難なところにも観測のメスが入れられるようにすることである。ここでは、このために開発を要する新技術について主に述べることにし、既存技術の拡張などについては最小限に記述に留める。

(a) 海域の活動モニターに必要な技術
 海域に観測の網が伸びていないために、プレート境界部と内陸部(背弧側)を含めた応力・歪配分の把握が不十分である。地震活動の把握も精度が落ちる。温度・電気抵抗構造は、まったく分解能が粗い。これについては静的な構造把握ですら不十分である。南海トラフを除いては測定困難のため、熱流量の観測空白域が大きいのでこれの克服が望まれる。電気抵抗分布はアクティブな探査の開発を進め、分解能をあげた測定を増やすことが重要である。
 海域において地震活動の把握を行うことは技術的には現状で可能である。破壊過程を記述するに役立てるような広帯域地震計の長期観測は緒についたばかりなので観測のレベルを陸上並みに向上させる必要がある。
 地殻変動観測の実現には開発の要素は大きい。これまで、固体地球科学全体を見渡しても意義ある成果はほとんどあがってない。しかし、実現の意義は陸上の地殻変動データが示しているようにきわめて高い。海底では音波による水平測距(〜10-5の精度)、重力・圧力計測による上下変動(〜μGal、100Pa以上の精度)でcmオーダーの変動検出が当面の目標である。傾斜・歪はマグマ活動を伴うような大きな変動が見込まれない限り、海底および未固結堆積層中での実現は難しく、露岩もしくは孔内固結岩体中観測が必要であろう。精度は陸上と同等に可能である。
 GPSネットワークを海域に拡げることは、きわめて重要度が高い。プレート境界付近の歪速度変化の把握が地震サイクル中の位置づけに有効であるからである。当面は、海上局の精密測位(海溝を越えてまでのキネマティックGPS測位)と、海面からの音響測距による海底トランスポンダーアレーの重心位置決定の精度向上をめざす。これまでに陸から150 km離れた海底点(水深<3 km)で年間数cm の移動を検出したとの報告例がある。大きな技術的問題は設置・電源維持・データ回収にある。地震サイクルに関わる地殻変動把握には陸から距離〜200 km程度までの観測データが必要であり、この問題の解決手段として、ケーブルあるいは潜水艇(ROV, AUV)の利用などによりできるだけ多様な観測に対応できるものが望ましい。

(b) 断層近傍の活動を高精度モニターするために必要な技術
 ここに必要な技術は、既存の観測精度をあげて、地殻深部(地震発生ゾーンの上から下まで)の精密な構造(深さ10kmで数10mの分解能で)とその変化を検出できるようにすることである。現在のところそのような高分解能をもたらす技術は地殻浅部(<数km)が限界である。これを越えるための次世代制御震源の開発が必要である。
 地震発生ゾーン中に計測センサーを埋め込んだ現場観測の実現も必要である。現在の深さ6km程度の掘削技術をさらに高温深部まで可能にする技術開発を進めなくてはならない。高温用センサー、エレクトロニクスの開発が必要になる。センサーは、温度、圧力、化学分析、地震、歪、傾斜があげられる。いずれも、小型アレー化することになろう。限られた掘削孔では、長期安定観測と能動的観測(水を注入して浸透を見るとか)を並行させることができるかなど、技術的検討課題が大きい。