3.2.2 特定地域の地殻活動モニタリングシステムの充実

(拠点地域の設定)
 本研究計画では、列島規模の地殻活動予測システムによって準備過程の最終段階に向かっていると判断される地域を選び出し、そこに密度の高い観測網を敷いて、応力や強度の変化に関係した状態の揺らぎと固着域の分布の把握に的を絞っていくことを基本方針としている。ここではそのような実践の場・拠点として東海地域、南海地域、三陸沖を設定する。地震発生準備過程の研究内容との関連については、3.1.2(B) でより詳しく述べてある。
 東海地域は、プレート間地震の研究対象として、いくつかの好条件をもつ。まず、プレート間カップリング域が陸の下まで及んでいるため、震源域とその周辺の状態変化を陸の観測網によって捉えることができること、また、プレート沈み込み口を挟んですでに稠密な観測網が敷かれ、これまでにデータの蓄積があること、さらに、過去数十年にわたって歪みの蓄積を示す地殻変動が観測されていることなどである。
 南海地域は、現在の観測網がプレート沈み込み口を狭んでいないことを除いて、東海地域と同様の好条件が存在する。また、半世紀以内に巨大地震が発生する可能性が高く、この地域の観測データは、将来的に非常に貴重なものとなることが期待される。
 上記の東海・南海地域では、サイスミック・カップリング係数がほぼ100% と見積られているが、三陸沖では、その値は 30%程度と見積られている。三陸沖では、巨大地震以外に微小地震活動も活発で、津波地震のような非常に低周波の地震も発生し、また10年に一度くらいの頻度でM7級の地震が発生している。さらに、その余効すべりがかなり大きいということが最近わかってきている。したがって、東海・南海と異なった場における地震発生のテストフィールドとして重要であり、かつ、短期間に成果を得られやすいという好条件を持つ。
 上記の3地域は、海洋プレートから内陸への応力伝達機構もかなり異なっていると考えられ、海域のみならず、内陸の地震発生現象の解明のためにも重要である。
(作業仮説による能動的監視)
 集中監視システムによって日々生起する地殻活動を監視し、リアルタイムにそれを評価していくためには、背後に作業仮説ないしシナリオ的な見方を持っていることが効果的である。これはまた震源域規模の予測システムの構築にもつながる。

 1つの可能性として次のようなシナリオが考えられている:
 ステージ1>余効変動の終息から強度回復・歪みエネルギーの蓄積へ
 ステージ2>強いカップリング域(固着域)の明瞭化
 ステージ3>カップリング状況のゆらぎと変化の進行
 ステージ4>固着域、もしくはその周縁域でのプレスリップ
このような作業仮説は、現象を受動的に観測するのではなく能動的に待ちかまえ、観測結果と照合させながら絶えずモデルの改良をはかる上で重要である。
 以上の考え方に基づいて、集中監視システムの充実と、解析・モデリングの改良とを有機的に結びつけた研究計画を提案する。

<実施計画>

(a) 観測網の整備強化
 拠点地域に既設されている以下の観測網の充実と継続を図る。さらに、順次、海底においても同様の観測を開始するために開発を行なう。

  1. 高密度地震観測 (広帯域化を含む)
  2. 体積歪計、三成分歪計、傾斜計等の地殻変動連続観測
  3. GPS観測と水準測量観測
  4. 地下水の地球化学的観測及び水位水温変化の観測
  5. 電磁気現象の観測
  6. 検潮観測

(b) 研究課題
 既存の集中監視システムを生かし、予知の可能性を更に高めるため、観測網の充実を図って以下の研究を行う。これらは、「3.1(3) 地震直前過程」の中に位置づけられる。

  1. 当該地域における地下構造の詳細、とくに海洋性プレートの形状と上盤地殻の物質、熱的性質、両プレート内及び境界域の応力状態を明らかにし、それらと地震活動分布との関連性を調べる。さらに、プレート境界面の不均質性や分岐断層の構造についても詳しく調査する。
  2. 固着域とその周辺の応力状態の変化を年々のバックスリップ量の変化として追跡するとともに、地震活動の特徴の変化を定量的に評価する手法を開発して、常時監視に活用する。
  3. プレート間地震の一サイクルをモデル化してシミュレーションを行い、震源域とその周辺でどのような変化が進行し、それはどのような異常として観測にかかるかを明らかにする。それに基づいて一サイクルのシナリオを準備し、その検証に最適な観測点の配置や観測項目、監視データの評価に関する研究を行う。
  4. 前兆現象の捕捉を目指して、予想される地殻変動や地震活動変化の検出手法の開発及びその高度化を行うととともに、地下水や電磁気現象等、直前に期待される現象についての研究を推進する。
  5. シナリオに基づいて各種データを監視し、地震の切迫性に関する状況の評価手法と情報の発表の仕方についての研究を行う
  6. 得られたデータから、内陸へのローディング・プロセスを解明する。