3.1.4 震源過程と強震動生成メカニズムの解明

<はじめに>
 不均質構造と相互作用は震源過程の複雑さ・多様性の根源であり、その意味で決定論的地震予知の困難さの大きな原因である。一方、もし断層面が完全に均質で、断層群の相互作用がなければ、前震活動等は現れにくいであろうし、活動の活性化や静穏化といった現象も現れにくいであろう。このような意味で、不均質構造と相互作用は様々な前駆現象が空間的な広がりをもって現れる原因でもあり、その意味で地震の発生予測の大きな拠り所でもある。
 大地震の破壊過程を詳しく調べることによって、断層面上の不均質な応力変化が得られる。この応力変化は地震発生直前の応力・強度分布を反映したものとみなせる。したがって、複数のアスペリテイがどの程度歩調を合わせて臨界状態へ近づいていったか、震源域の外側と比べて応力・強度がどの程度のコントラストをもっていたか、などを知ることができる。このような情報が蓄積されれば、大地震の発生に先だって震源域及びその周辺の応力・強度の状態を評価することができ、大地震の直前過程を考える上で重要な知見となる。
 不均質媒質中での断層群の相互作用の理解が進めば、単に地震の規模がどれくらいということではなく、その発生パターンについても定量的予測が可能になる。強震動の生成は、このような震源過程の複雑さとともに、地震波伝播の点からも不均質構造に大きく影響される。そこで震源の破壊パターンの多様性と地殻構造の不均質性を観測や解析的研究から把握するとともに、それらが強震動の生成にどのようにむすびつくかを理論やシミュレーションによって予測していく必要がある。
 強震動そのものは建築物の被害等を見積もる上で最も重要な情報の1つであり、これを社会や工学に利用できる形で提供することは地震防災の観点からも重要である。
 以上の基本認識のもとに、一方で「地震時(co-seismic)のデータから地震発生条件や不均質構造を抽出する逆問題の解法システム」の整備を行い、他方で「不均質構造と地殻活動の推移・境界条件の下で地震発生パターンと強震動生成を計算する順問題の予測システム」の開発を行う。

<研究課題>

(a) 断層面上の不均一応力変化と強度分布の把握
 地震波の解析により、できるだけ詳細に地震時の応力・歪みの変化、断層面上の摩擦すべり特性の不均一分布(アスペリテイとバリア)を明らかにする。とくに、破壊の開始域と停止域の物性(脆性延性、摩擦すべり特性)の違いを明らかにする。これは破壊の停止機構の解明にもつながるのであるが、最大の困難は地震時にすべらなかった部分(周辺域)の場と物性量をいかにして把握するかである。ここに理論・解析・観測の英知を集中する。
 M6クラス以上の地震を対象として、震源域(長さ10km程度以上)を1-2km程度の精度で解析する。このために必要な観測データは基盤的観測網(とくに広帯域地震計と強震計)により概ね提供されるが、テストフィールドでの稠密観測により、更なる解析精度の向上も目指すことにする。
 各地域の最大規模の地震の予測には、小規模地震の場合とは違った拠り所が存在する可能性がある。応力の充満している範囲に比べて短い震源断層は、全体的に見れば、応力の解放というより応力の再配分ないし集中を意味する。これに対し、応力充満域に匹敵する断層の形成は、全体的に見ても、応力の解消を意味するからである。このような違いが地震の発生過程に反映しているかどうかを調べる。

(b) 強震動生成メカニズムの解明
 複雑な震源の破壊パターンからもたらされる強震動生成を数値シミュレーションなどによって求め、予想される強震動の範囲を明確にする。また、群発地震発生地域の周辺に稠密な強震計ネットワークを整備し、そのデータを利用して3次元地殻構造を求めるとともに、構造を考慮したシミュレーション結果と稠密強震計データとの比較を行うことにより、不均質構造の影響を明らかにする。また、震源からやや離れた強震計データを利用して伝播経路の影響についても併せて研究する。

(c) 余効変動と地震後の応力再調整過程の解明
 地震時の変動及び余効変動の観測により、断層面の強度の回復過程を調べる。とくに、アスペリテイとその周辺の強度回復に差があるかどうかを調べる。また、応力の蓄積・集中に関与している周辺領域(非地震発生域)との相互作用パラメーターを明確にし、広域の地殻活動シミュレータの改良に寄与する。

(d) 余震や群発地震の解明
 余震や群発地震の詳しい調査により、震源域内での小断層の3次元空間分布を明らかにする。また、個々の微小地震のメカニズム変化や破壊継続時間の変化を、歪や重力場の変化から推定される流体の移動と結び付けることにより、強度と孔隙圧の関係、断層群の準静的相互作用、動的相互作用の効果を実証的に調べる。そのため各種地震計と重力計の高密度観測・解析を行う。

(e) 地震・強震動生成シミュレータの開発
 与えられた不均質構造(小断層群と主断層面上のアスペリテイの分布)と境界条件の下に、地震の発生パターンと強震動生成の予測を行う数値シミュレータを開発する。その際、上部シミュレータ(列島全域規模シミュレータ)における境界条件の与え方と整合性のとれた階層的シミュレータの構築を目指す。

(f) 初期破壊過程の研究
 地震の始まり方にウオーミングアップの過程が存在することが知られている。これは強度や応力の不均質分布と小断層群の相互作用を反映したものと考えられる。この初期破壊過程が地震の大きさに関係があるかどうか、さらに前震の有無との関係などを調べる。地震規模の予測可能性に関わる研究課題である。

<研究手法>

(a) 観測と解析
 地震波形の解析手法については、線形弾性変形が成り立つ範囲では概ね確立している。時間・空間分解能を格段に上げて地震の発生予測に役立たせるためには、データの質の向上及び震源周辺の微細構造の把握が重要である。このための観測網は、国が進めている高感度地震計、広帯域地震計、強震計などの基盤観測網によって徐々に整備されつつある。これらの観測データを基礎に、必要に応じてより稠密な観測データを加えて、M6クラス(震源域の大きさ10km)以上の地震について空間分解能1kmぐらいで、不均一すべりと不規則破壊伝播を求める。M5クラスの地震については、時間関数と位置、破壊伝播方向の即時解析システムを確立する。これにより、初期破壊や前震などの逐次監視に対応できるようにする。
 強震動データを使って震源の解析を行うにあたっては、不均質構造による地震波伝播の影響を取り除かないと、正確な震源の情報が得られない。このようなことから、震源の解析と不均質構造の影響の解析は同時並行して進めることが大切である。
 さらに、大・中地震の発生した地域(内陸ではM6以上、海域ではM7以上)について、機動観測による余震、余効変動の精密な観測を行うとともに、断層面の固着状況及び震源域周辺の構造調査を行う。これは震源の解析にフィードバックされる。

(b) 過去の地震記録による震源過程の解明
 20世紀はじめの大地震については、データの質は悪いが、少なからず地震の記録が残されている。これらに波形のインバージョン法を適用することにより震源過程を定量的に把握することができる。海溝沿いの地震についてはM7.5、内陸地震についてはM7以上を目処に、系統的に波形データの掘り起こし(データベース作成)と解析を行う。得られた震源情報は広域の地殻活動予測シミュレータの改良・検証に役立てられる。
 千島列島、三陸沖、日向灘などでは、1960年代に発生したM7-8クラスの地震が再発生し始めている。60年代には世界標準地震計観測網 (WWSSN)の整備により、比較的性能の良い地震記録が使える。これと近年の広帯域地震観測網のデータを用いば、震源域を共有する大地震についての震源過程の比較ができる。これにより、摩擦特性の空間分布(アスペリテイ)の再現性・非再現性、さらには構造調査による不均質構造との関係を明らかにする。

(c) 活断層研究に基づく地震断層のモデリングと強震動予測
 活断層は内陸地震の発生源として、地震予知研究及び防災対策上、必須の情報を提供する。さらに、地震断層の形状は強震動生成メカニズムを解明する上で重要な役割を果たす。
 日本列島の主要な活断層については、「日本の活断層」等に概要がまとめられているものの、長大な活断層のセグメンテーションや近接する活断層のグルーピングについては十分な検討が進められていない。また、トレンチ発掘調査だけでは解明することが出来ない海域や平野部に伏在する活断層については、分布調査も十分とは言えず、活動時期の解明は十分には進んでいない。さらに、強震動生成メカニズムの解明のためには単に活動時期だけでなく、変位量や変位センスを含めた総合的な地震像を把握する必要があり、調査方法の向上を図る必要がある。
 ここでは、震源過程と強震動生成メカニズムの解明を通じて、直下地震の予測と被害軽減を望む立場から、

  1. 活断層のセグメンテーションとグルーピングに関する研究
  2. Geo-slicer・高分解能年代決定等の古地震学的調査手法の開発・改良
  3. トレンチ発掘調査に加えて、液状化跡・タービダイト堆積物・津波堆積物・歴史文献史料等の調査に基づく古地震の活動時期の解明
  4. 断層の3次元的形状・破壊開始点・伝播方向・変位量分布を盛り込んだ地震断層モデルの推定
  5. 新たな地震断層モデルと堆積盆地の形状及び地震波伝播特性を加味した強震動予測シミュレーション
を行う。

(d) フィールドによる総合研究
(三陸沖と日向灘)
 大地震(M7クラス)の震源過程と構造の関係、GPSによる余効変動の追跡と余震のモーメント積算の比較による(地震すべり/非地震すべり)の時間変化、アスペリテイとその周辺の物性の違い、同一地域での地震の発生パターンの再現性・非再現性を明らかにする。
(伊東沖)
 断層群の形成、群発地震の発生条件の解明、及び、強震動発生の実証的解明を行う。震源域に達する深層ボーリング(1-3km)調査と稠密強震計ネットワークの構築を行い、準静的過程(地殻変動)から動的過程(強震動)までを対象とした総合テストフィールドとする。