YCU地震学レポートNo.53                                      Mar.09,96

       3月6日  山梨県南東部の地震の近地実体波(暫定解)


3月6日夜11時,山梨県南東部を震源とする2つの有感地震(気象庁マグニチュ ード4.5, 5.8)がありました。2つ目の地震に対してIRISの広帯域記録が手に入 るものと思っていましたが,どうやらMsは5.5以下だったようで,データセンタ ーの記録収集は行われませんでした。 ここでは,防災科学技術研究所及び当方のネットワークの地震計記録を用いた波形 解析について報告します。(実は最も頼りにしていたTKO(高尾)の集録装置が, 前震の直後にダウンしてしまいました。原因は不明です。この観測点には強震計も設 置してあっただけに大変残念です!) 今回用いた解析手法は次の通りです。まず前震について,SGN(都留菅野)と TKOのP,S波を使って波形インバージョンを行いました。図1に結果を示します。 東南東から西北西方向に潜リ込む低角逆断層です。主な震源パラメタは ------------------------------------------------------------------ メカニズム (走向,傾斜,すべり角)=(192,22,72) モーメント Mo= 5.4 x10**15 Nm マグニチュード Mw= 4.4 破壊継続時間 T=0.3 s ------------------------------------------------------------------ 次に,前震の記録をグリーン関数として,本震の記録をインバージョンしました (経験的グリーン関数の手法)。SGN,YCU(横浜市立大学),JIZ(中伊 豆地蔵堂)それぞれから得られた震源時間関数を図2に示します。本震の震源が3 つのサブイベントから成ることがわかります。このうち最初の破壊はちょうど前震 と同じ程度の大きさです。Directivity はあまり明らかではありませんが,強いて 言えば,SGNからYCU,JIZの方向に破壊が進んだようです。まとめると ------------------------------------------------------------------ メカニズム (走向,傾斜,すべり角)=(192,22,72) (仮定) モーメント Mo= 1.2 x10**17 Nm マグニチュード Mw= 5.3 破壊伝播 北から南へ約5km 断層面積 S=5km x 2.5km=1.25x10**7 m*m 破壊継続時間 T=2.9 s ずれの大きさ D=Mo/μS= 0.3 m (μ= 30 GPa) 応力降下 Δσ=2.5Mo/S**1.5= 6.8 MPa (68bar) ------------------------------------------------------------------ メカニズム解および震源の位置から見て,この地震はフィリピン海プレートの潜り 込みによるプレート間地震と考えられますが,応力降下はやや高めです。昨年4月 18日の駿河湾北部で起こった地震とほぼ同じメカニズム・応力降下をもっているこ とが注目されます。(なお,メカニズムについては,気象庁はじめ他機関の解析結果 は当方と異なっています。念のため。)