YCU地震学レポートNo.46                                        Oct.8,95
 
        9月29日〜10月5日伊豆半島東方沖群発地震
        10月1日フランス核実験
        10月6日神津島近海の地震    の解析
        (+HKY観測点の移転と成分の訂正)


1。伊豆半島東方沖群発地震 9月27日に再び活発化し始めた伊豆半島東方沖地震は,10月5日以降,活動が 収束傾向にあるようです。この間,10月1日に最大地震M4.8が起こり,また, 10月4日には振幅の小さい火山性微動,及び,低周波地震が観測されました(気象 庁発表)。ここでは10月1日の最大地震について,波形解析の結果を報告します。 なお,低周波地震と呼ばれたいくつかの地震については,後日,メカニズム解を調べ てみようと思っています。 図1に,この間の主な地震(気象庁から速報がでたもの)のP波初動変位記録 (JIZ,震央距離16km)を示します。前半部分では,パルス幅がほぼ0.2秒 の単発ないし連発地震が目立ちます。後半部分ではそれらがオーバーラップして 0.5〜0.8秒のパルス幅を形成していることがわかります。このような特徴は 1993年5月の群発地震でも見られました(YCUレポート#19,#22)。 小断層群が,応力の高まりに応じて合体し,より長い断層に成長していく過程を表し ているものと解釈できます。 図2に10月1日の最大地震の解析結果を示します。波線近似法の適用上,P波及 びSH波のごく初動部分のみを使いました。メカニズム解は東南東−西北西方向の圧 縮軸を持つ横ずれ型です。気象庁速報震源と断層パラメターは次の通りです。 発震時刻 震央 深さ mb 95/10/01 11:42 35.0N 139.1E 10 km 4.8 (気象庁速報) メカニズム モーメント Mw 継続時間 (φ,δ,λ) Mo T (161,88,19)/(70,72,178) 1.5x1016 Nm 4.7 1.0 s ここで,破壊速度v= 2.5 km/s,伝播時間T/2の双方向破壊モデルを仮定すると,断 層面積S,すべり量D,応力降下Δσは次のように見積られます。 S=2.5x1.25=4.5 km2 D=Mo/μS=0.11 m, Δσ=2.5 Mo/S1.5=3.8MPa 2。神津島近海の地震 伊豆半島東方沖の群発地震が静かになりつつあるころ,今度は神津島近海を震源と するM5.6の地震が起こりました。気象庁の速報震源は次の通りです。 発震時刻 震央 深さ M 95/10/06 21:43 34.1N 139.1E 10 km 5.6 JIZ,HKY,YCU(震央距離91,126,145km)の記録を用いた解 析結果を図3に示します。グリーン関数の計算は波数積分法によるものです。メカニ ズム解は南北圧縮の横ずれ型です。主な震源パラメターは メカニズム モーメント Mw 継続時間 (φ,δ,λ) Mo T (216,69,-22)/(314,70,-158) 1.2x1017 Nm 5.3 6.0 s 上の継続時間は最小自乗法で決められた値ですが,波形の比較からはもう少し短か目 (約4s)の方がよさそうです。このことを考慮して,断層面積S,すべり量D, 応力降下Δσを見積ると S=50 km2 D=Mo/μS=0.080 m=8.0 cm, Δσ=2.5 Mo/S1.5=0.85 MPa となります。かなり低い応力降下です。 92年に広帯域地震観測を開始して以来,神津島近海ではしばしば群発地震が起こ りました。その都度,波形解析を行なってきましたが,いずれの場合も低い応力降下 が得られています(YCUレポート#6,10,16参照)。 なお,当方では,先月初め,神津島と式根島にカセットテープ収録方式の地震計を 設置しました。まだカセットを回収しに行っていないないので,データがうまくとれ たかどうかわかりません。1個でもとれていれば,震源時間関数の推定に大変有用に なるのですが(減衰Qの影響が小さいので)。 3。10月1日フランス核実験 日本時間の10月2日朝,フランスはポリネシアのファンガタウファ環礁で再び核 実験を行ないました。USGSの震源情報によると 発震時刻 震央 深さ mb 95/10/01 23:29:57 UT 22.3S 138.8W 0 km 5.5 これは前回の核実験(訂正後のmb4.8)に比べ,かなり大きいものです。したがって遠 地実体波(P)のデータも比較的良質です。ここでは,0.5-20 Hz のバンドパスフィ ルターをかけた変位記録を解析してみました。結果を図4に示します。前回にも増し て等方成分(膨張成分)Iが大部分のメカニズム解が得られました。モーメントテン ソルの全成分は次の通りです。 Mij = 3.0 -0.8 -2.4 [x1016 Nm] -0.8 3.0 -0.7 -2.4 -0.7 3.1 (x1,x2,x3)=(North,East,Down) 主値M1,2,3,スカラーモーメントMo,Iの値は M1,2,3 = (5.5, 3.4, 0.26) x1016 Nm Mo=(M1+|M3|)/2 = 2.6 x1016 Nm I=(M1+M2+M3)/3= 3.0 x1016 Nm です。主値,等方成分ともほぼ前回の5〜10培です。また,モーメントテンソルの 各成分の符号は,前回と全く同じです。このことは,非等方成分がテクトニックな応 力を反映していることを示唆しているように思われます。 4。HKY観測点の移転と成分の訂正 当方のネットワーク利用者の皆さんには連絡が遅くなってしまいましたが,本年 3月21日に,HKY観測点(箱根湯本,神奈川県温泉地学研究所)が,ほんの少し ですが,場所を移動しました。新しい観測点は 35.235N, 139.124E, 56m です。なお,移動の際に,センサーの向き(水平成分)が間違って設置されたようで す(N軸が東を向いている)。後日きちんと確認・訂正のうえ報告しますが,とりあ えず,4月以降これまでのデータについては,N成分をE成分に,−E成分をN成分 に置き換えて下さい。(移設にあたっては,業者まかせは駄目という見本でした。) 皆様にご迷惑をおかけして申し訳ありません。 (MK)