YCU地震学レポートNo.31                            Dec. 6,94
                                                         
        10月4日  北海道東方沖地震の遠地実体波解析速報(暫定版)                               (暫定版)


今回は北海道東方沖地震の解析速報を送ります。前回のボリビア地震が「世 紀の巨大深発地震」なら,今度の地震は「グローバル広帯域地震観測網が始ま って以来の最大規模の地震」でした。ハーバードCMTの解析速報に次のよう な前書きが添えられていました。 "This is the largest earthquake since the 1977 Sumba event, and mayeven be larger." 地震が起こったのは10月4日夜10時23分。IRIS−DMCの広帯域 地震記録は深夜12時までにはほとんど収集できました。波形データを変位波 形に変換してみて驚いたのは,その振幅の大きさです。遠地の実体波記録(表 面波ではなく)が5mmもの揺れ幅をもっているのです(後にでてくる観測波 形(図2)で,観測点コードの上の数字がμ単位の振幅を示します)。 解析をはじめる前は,地震の起こった場所から考えて,典型的なプレート境 界型逆断層であろうと思っていたのですが,結果は違っていました。少なくと も典型的な逆断層ではなく,それどころかプレート内地震ではないかと思わせ る節があります。これについては後で触れます。また,多くの大地震と同じよ うに,初めの数秒間に小さい初期破壊が見えます。大きさはM6程度です。 32個の遠地実体波(P,SH波)記録をインバージョンしました。結果を図1に 示します。得られたメカニズムはかなり横ずれ成分を含んだ逆断層解です。念 のため,メカニズムの変化を考慮したインバージョンを行いましたが,図を見 て分かるように,メカニズムの変化はほとんど見られません(図の1,2のメ カニズム)。ただし,少しのメカニズム変化でも波形に大きく影響する観測点 があるので,インバージョンでは,2つのメカニズムそれぞれについてモーメ ント速度関数を求めました。図に示したモーメント速度関数は,それらを足し 合わせたものです。Mw8.3 の規模にしては,パルス幅(約40秒)が非常に短い のが特徴的です。また,今回の暫定解では,震源の深さは一定とし,その最適 値を決めました。得られた深さは40〜50km でした。 主な震源パラメータは次の通りです。 深さh=40〜50km Mo=3.8x10^21 Nm Mw=8.3 破壊継続時間 T=40s Subevent メカニズム Mo 重心位置 (φ,δ,λ) x10^21Nm #1 (168,39,34) 2.1 20km SW #2 (157,32,26) 1.8 40km SW Total (163,36,31) 3.8 以上の結果は,今回の地震がプレート境界地震ではなく,むしろ,昨年1月 の釧路沖地震や8月のグアム地震のような,プレート内部地震である可能性を 示唆しています。その主な理由は メカニズム(P波節面)がこの地域の潜り込み面と合あわない 主破壊の深さが深い(H=40〜50km) 破壊継続時間が短く,かなり高い応力降下である などです。今後,余震分布などを使って断層面が決まれば,もっとはっきりし た議論が可能になると思われます。 (この見解は,筆者がおぼろげに考えていた矢先に,カリフォルニア工科大学 の金森博雄教授からのe−mailで,より明確になったものです)。
<余録> いろいろと用事があり広帯域地震計観測データの解析に手がまわり ません。当然のことながら,地震は我々の忙しさなどお構い無しにやってきま す。重要なイベントについては何とか時間をひねり出して解析して行こうと思 います。