YCU地震学レポートNo.24                            Jul.20,93

    7  月  1  2  日  北  海  道  南  西  部  地  震 MJ7.8 
      広  帯  域  地  震  記  録  と  そ  の  解  析 (暫定版) 


7月12日夜の北海道南西部地震では,死者・行方不明者合わせて2百数十 名という,最近のものとしては最悪の地震津波災害となってしまいました。 今回の地震の震源過程については,すでにいろいろなところで解析されてい るようです。当方で掴んでいる暫定解は次のようなものです。解FとGが,当 方の解で,3ページ以降に結果を示します。 表1 φ,δ, λ Mo Mw x10**27dyn.cm 長周期波 (A) 1,24, 84 5.6 7.8 CMT解 (B) 350,45, 65 4.9 7.7     (C) 9,35, 97 4.2 7.7 実体波 (D) 208,38, 63 2.4 7.5     (E) 221,37,123 0.9 7.3     (F) 188,31, 76 2.7 7.6 稍近地 (G) 183,33, 51 4.5 7.7 長周期 (H) 162,41, 76 5.3 7.7 上の表を見てもわかるように,この地震は少し謎めいています。1つは断層 メカニズム解です。上の解は,いずれも「東西圧縮の逆断層型」ということで は一致していますが,傾斜方向・傾斜角にかなりのばらつきがあります。遠地 実体波や稍近地長周期波では,「西向き緩傾斜/東向き急傾斜の逆断層」が得 られるのに対し,CMT解では,「東向き緩傾斜/西向き急傾斜の逆断層」が 得られています。 地震の規模(地震モーメント)についても謎です。遠地実体波の解析から推 定される地震モーメントはおよそ 2〜3x10**27dyn.cm で,この値はCMT解に よるモーメント(4〜6x10**27dyn.cm)のほぼ半分です。このような違いは震源 時間の長い場合にはよくあることですが,ほぼ同じ震源時間(40〜50s)内で, モーメントの見積が2倍も食い違うのはやはり謎です。 当然のことながら震源は1つですので,上のような一見矛盾した結果は,こ の地震の複雑さ・特徴を物語っているのかも知れません(たとえば断層が海底 まで突き抜けたとか,複数の断層が動いたなど)。 もう一つ注目されることは,初期破壊を示すと思われるP波初動付近(初め の約4秒間)の波形です。今回は生の記録を並べるに留めます(図1)が,も しかしたら,重要な情報が含まれているのかも知れません。 (追記)今回の地震について,当方では地震波データそのものはかなり早い 段階で収集することができました。しかし,TVに写し出される災害状況を見 るにつけ,しばらくはそのデータを解析する気力を喪失していたというのが, 正直のところです。”リアルタイム”地震学には,精神的な強さと科学者とし ての冷静な目が必要であると反省しています(MK)。 <遠地実体波の解析> 図2(-a-b)は,IRISの広帯域地震記録を用いた遠地実体波インバー ジョンの結果を示します。まず,初めの20秒間で断層メカニズム解を求め、 次いで,メカニズムと断層面を固定して,はぎとり法により多重震源の時空分 布を求めました。いずれ観測波形に見られる擾乱のどこまでが震源に因するか をチェックしなければいけませんが,ここで得られたサブイベントを全部足し 合わせても,モーメントは表1(F)の程度にしかなりません。 なお,理論波形の計算に当たっては,震源近傍の構造として海水層2kmを 考慮しています。 全体の破壊過程の特徴として,次のようなことが推測されます。 1)破壊は深さ17〜20kmから浅い方に向けて進行した。 2)破壊の拡がりは,全体として見れば,単方向(南方)で、 長さは約100kmに及ぶ。