YCU地震学レポートNo.14                                Sep.19,92
          
          8月 4日      千  葉
          8月 7日      若  狭  湾  深  部
          8月16日      小  田  原 
          8月27日      茨  城  南  西  部
          8月30日      本  州  南  方  深  部
          9月15日      山  梨  東  の 地 震 


このところ国外ではキルギスタン地震(M7.5)、ニカラグア津波地震(M7.0)、 ザイール正断層型地震(M6.7)など、注目すべき地震が相い次いで起こっていま す。それとは対称的に日本では、目ぼしい地震がパタっとなくなりました。M 5クラスはおろかM4クラスもめずらしいこのごろです。 この静けさ、果たしていつまで続くのか、あるいは、この程度の静けさは確 率誤差の範囲内のことなのか。ともあれ広帯域地震観測網が稼働して以来の手 持無沙汰(?)の状況です。 今回のレポートでは、以下の地震の解析結果について報告します。 No Date h:m もよりの地名 震 央 深さ M 出典 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 1 8/04 19:46 千葉県 35.70N 140.19E 66km 3.8 NIED 2 8/07 01:41 若狭湾 35.60N 135.50E 350km 6.1 JMA 3 8/16 13:17 小田原 35.24N 139.13E 14km 2.1 NIED 4 8/27 13:09 茨城県 36.00N 140.00E 50km 4.8 JMA 5 8/30 04:19 本州南 33.20N 138.00E 310km 6.0 USGS 6 9/15 10:49 山梨県 35.47N 138.93E 21km 3.0 NIED 解析結果の要点を次表に示します。また,メカニズム解を図1に示します。  (小田原と本州南の結果については各Noをクリックして下さい) メカニズム Mo Mw τ Mo/τ**3 テクトニクス (str,dip,sl) dyn.cm s (*) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 1 (231,14,140) 8.3e21 3.9 0.45 low (0.1) EUR/PAC境界 2 (58,50,-77) 1.5e25 6.1 2.00 normal (2) PAC内 3 (30,65,90) 6.6e19 2.5 0.15 low (0.2) PHS内 4 (230,30,104) 6.5e23 5.1 0.90 normal (1) EUR/PHS境界 5 (188,88,90) 2.5e25 6.2 1.20 very high (14) PAC内 (188,80,90) 1.1e24 0.30 ext. high (41) 初期破壊 6 (60,70,70) 2.0e20 2.8 0.15 normal (0.6) EUR/PHS境界 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 注(*) 浅い地震では、Mo/τ**3=1e23 dyn.cm/s**3, 深い(h>50km)地震では、Mo/τ**3=1e24 dyn.cm/s**3を基準とした。 補則説明&議論 (1)7月22日の富山湾深部の地震(h=260km)は低応力の地震でした(レポ ート#13参照)が、今回の若狭湾深部の地震(No.2,h=350km)は標準的な応力降 下を伴っていました。一方、本州南方の地震(No.5,h=310km)は、標準の10 倍強の応力降下を伴っています。応力降下を支配している因子は何か?古くて 新しい問題です。
(2)No.5の地震の解析では、まず、遠地記録のインバージョンからメカニズ ムを決め、次いで、我々のネットの記録を用いて、メカニズムを固定したイン バージョンにより、震源時間関数を求めました。これにより、主破壊に先立つ 初期のサブイベントがはっきりと抽出することができました。表2からわかる ように、主破壊と初期破壊の間には、「Δσ=一定」のスケーリング則が成り 立っているようです。(細かくみれば、初期破壊のΔσの方がやや高め) (3)小田原の地震(No.3)は、規模は小さいのですが、真上の観測点 (HKY)の 記録が震源解析に有効でした。メカニズム解は防災科技研の微小地震ネットに よるP波初動解を多少変更したものです。 前回レポートで報告したように、この周辺(網代・箱根)では、7月16日 に小さい地震が4,5個続発しました。今回の地震はそれらより震源が深く、 PHSプレート内の地震と思われます。No.6の地震と合わせ考えると、この付 近のEUR/PHSはやや活発化の兆候を示しているように見えます。 (4)No.6の地震は,EUR/PHSプレート境界の地震と考えられます。解 析にあたっては、ごく最近ダイヤルアップになった防災科技研の菅野観測点( SGN)の記録を使いました。この観測点はノイズレベルが大変低く、今後の 地震研究に大いに役立つものと期待されます。