YCU地震学レポートNo.13                                Jul.26,92

          7月16日   網  代 〜 芦  の  湖 , 浦  賀
          7月17日   千  葉  中  部
          7月21日   静  岡  県
          7月22日   日  本  海  深  部
          7月25日   浦  賀
          7月26日   神  奈  川  北  部  の  地  震 

三陸はるか沖の大きい地震が注目されているこのごろですが、この間、関東 周辺でもいくつか興味ある地震が起こってB今回のレポートでは、以下 の地震について報告します。 No Date h:m もよりの地名 震 央 深さ M 出典 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 1 7/16 01:18 網代 35.07N 139.12E 8km 2.6 NIED 2 7/16 01:41 〃 〃 〃 10km 2.1 温泉研 3 7/16 07:46 芦の湖 35.22N 139.00E 5km < 2 温泉研 4 7/16 20:00 浦賀 35.17N 139.67E 97km ? JMA 5 7/17 04:56 千葉 35.62N 140.14E 81km 3.8 JMA 6 7/21 15:05 静岡県 34.69N 137.80E 30km 3.7 NIED 7 7/22 05:22 富山湾 36.97N 137.48E 260km ? JMA 8 7/25 20:47 横浜北 35.55N 139.58E 35km 2.7 JMA 9 7/26 00:24 浦賀 35.17N 139.70E 93km ? JMA 解析結果の要点を次表に示します。また,メカニズム解を図1に示します。 メカニズム Mo Mw τ Mo/τ**3 テクトニクス (str,dip,sl) dyn.cm s (*) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 1 (131,9,0) 3.9e20 3.0 0.15 normal (1.1) EUR/PHS境界 2 (154,11,0) 1.8e19 2.1 0.15 very low (0.05) EUR/PHS境界 3 (290,90,180) 1.6e19 2.1 0.20 very low (0.02) 箱根,EUR内 4 (199,57,102) 1.4e21 3.4 0.15 low (0.4) PAC内 5 (191,21,113) 1.5e22 4.1 0.40 low (0.2) EUR/PAC境界 6 (317,90,180) 3.6e21 3.6 1.50 very low (0.01) 東海,PHS内 7 (50,57,-98) 3.9e22 4.3 1.00 very low (0.04) downdip-T 8 (272,51,-3) 8.2e19 2.5 0.10 normal (0.8) ? 9 (18,74,-114) 2.4e20 2.9 0.10 low (0.2) PAC内 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 注(*) 浅い地震では、Mo/τ**3=1e23 dyn.cm/s**3, 深い(h>50km)地震では、Mo/τ**3=1e24 dyn.cm/s**3を基準とした。 補則説明&議論 (1)温泉地学研の情報によると,7月16日に,網代から箱根にかけて小さ い地震が4,5個続発しました。このうちの3個が No.1〜3 の地震です。 図2に,それらの震央と2つの地震の記録が示されています。振幅が10倍も 違うのに,波形はそっくりであることがわかります。あいにく,これらの地震 については有効な観測点が1つだけ(HKY)しかなく,また,防災科技研の 微小地震ネットのP波初動の分布も確定的でないため,得られたメカニズム解 のユニーク性については吟味を要します。 そこで,断層メカニズムを少しずつ変えてP波とSH波の合成記録を作り, その極性と振幅が観測波形と一致するものをすべてピックアップしてみました (図3)。大別して,北西落ちの縦ずれ型と南北圧縮の横ずれ型が可能なメカ ニズムであることがわかります。つぎに,これを防災科技研のP波初動分布( 図4)と比べると,横ずれ型の可能性が少ないこと,したがって, インバージョンで得られた解(図5)が妥当であることがわかります。 かくして,網代から箱根にかけて起こった小地震群は,フィリピン海プレー トの潜り込みによる低角逆断層型の地震と上盤(ユーラシアプレート)内の横 ずれ断層と解釈されます。 (2)No.7の地震は,潜り込む太平洋プレートのテクトニクスを考える上で, 貴重な地震と思われます。深さ 300km前後は,概して地震の数が少ない場所で す。ここで得られたメカニズムがdowndip-extension を示していることや,ま た,かなり低い応力効果を伴っていることなど,いろいろおもしろそうです (深尾良夫教授私信)。 (3)No.8の地震は,6月17日の東京西部の地震と同じように北西−南東方 向の引っ張り軸を持っています(YCUレポート No.10参照)。今のところ, このテクトニクス的意味はよく分かりません。 (4)No.4と 9の地震は,2月2日未明の地震以来続いているものです。単な る余震にしては,継続期間が長過ぎるように思われます。また,これまでとは ちょっとメカニズムが異なるように見えます。 【ひとりごと】 岩手沖地震7/18(M7.0)の解析結果について 7/16地震の解析:メカニズムはプレート間地震を示す Mo/τ**3はNormalな値を示す これだけの情報では,前震と断定する根拠にはならない。 地震の発生は,できの悪い石垣の崩壊のようなものだとする。 1ヵ所が崩れる(前震)とその周辺のバランスが崩れ,やがてがらがらと大きな 崩壊(本震)が起こる。その後崩れ残った部分の崩壊(余震)が間欠的に起こる。 個々の石の崩壊を見る限り,どの段階の崩壊も同じように見えるであろう。 大切なことは,全体の中で占める個々の破壊の役割である。1個の崩壊の意味する ことは2つ。 1つは,その場所が崩壊する条件に達したこと, 1つは,その崩壊がまわりに何等かの影響を及ぼすこと。 2つ目をはっきりさせるためには,石垣全体が監視されていることが特に大切である。 1個の崩壊による全体の反応がわかれば,全体がどの程度切羽詰まっているかがわかる。