EIC地震学ノート No.3        Oct. 8, '96

                          東大震研情報センター

◆近地実体波解析◆ -------------------------------------------

10月5日静岡県中部の地震 (Mj 4.4)

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●概略・特徴: 10月5日9時51分、静岡県中部を震源とする地震がありました。
気象庁による震源諸元(再決定)は
  震央 35.00°N  138.04°E   深さ 26 km   Mj = 4.4
でした。震源の位置はちょうどフィリピン海プレート(PHS)とユーラシアプレート
(EUR)の境界付近(Ishida [JGR, 1992]の図から判断)に位置します。したがって、
規模は小さい(断層の長さが1 km程度)のですが、想定東海地震との関連で注目され
る地震です。

●データ処理: 南関東・東海地方に展開している広帯域地震計ネット(FREESIA)か
ら、3地点(清水、地蔵堂、菅野)の実体波記録(P波・SH波)を収集しました。グリ
ーン関数の計算には、かなり無理を承知で、波線近似法を使いました。各観測点の表
層構造についてはHaskell - matrix で考慮してあります。

●結果: 解析結果を図1に示します。波形の一致はあまりよくありませんが、破壊は
比較的単純で、継続時間が0.5 秒の単発地震と思われます。メカニズムは、(1)西緩
傾斜の断層面で下盤が北西に潜り込む解と(2)南西に走向をもつ鉛直断層面で北落ち
の解のいずれかですが、波形解析だけからはどちらとも判定できません。地震のモーメ
ントマグニチュードMwは気象庁のMjよりかなり大きめです。主な震源パラメタを下に示
します。

    (走向、傾斜、すべり角)=    (143, 25, -15) / ( 246, 84, -114) 
                    水平断層または鉛直断層
    地震モーメント         Mo =  1.7 x 10 **16 Nm    (Mw = 4.7)
    破壊継続時間          T = 0.5 s    
    断層面積(両方向破壊2.5 km/s) S = 1.5 x 0.8 km**2
    深さ               h  = 30 km (精度不良)
    食い違いの大きさ               D  =  Mo/μS = 0.46 m  (μ= 30 GPa)
    応力降下                   Δσ =  2.5 Mo/S**1.5 = 32 MPa

●解釈: 震源の位置はほぼプレート境界に位置しますが、メカニズムを見る限り、プ
レート間地震ではなさそうです。一方、応力降下もプレート間地震の平均的な値
(3MPa)より有意に大きく、プレート内地震の兆候を示します。そこで問題は、プレー
ト境界面の上側(EUR)か下側(PHS)かです。下側プレート内とすれば、プレート傾斜方向
の引っ張り力(downdip-extension)に伴う地震と解釈されます。上側プレート内とす
るとどう解釈すればよいのかわかりません。
                                                             (文責:菊地正幸)