EIC地震学ノート No.181 Jul. 18, 2006 Jul. 22, 2006(追記) 東大地震研究所 ◆遠地実体波解析(暫定解)◆ -------------------------------------- 7月17日ジャワ島の地震(M7.7) ----------------------------------------------------------------
● 概略・特徴: 7月17日8時19分(UT),インドネシアのジャワ島で
M7.2の地震が発生しました.この地震では津波が発生し,ジャワ島では最大3mを
記録したという報告もあります.津波や建物倒壊で500名以上の方が亡くなり,負傷者や
津波による不明者も多数出ているようです.
USGSによる速報震源は次の通りです.
発生時刻 震央 深さ M 06/07/17 08:19 (UT) 9.30°S 107.30°E 10km 7.7
●データ処理: IRIS-DMCから収集した広帯域地震計記録(P波上下動31,SH波8)
を用いて解析しました.
●結果: 結果を図に示します。
主な震源パラメータは次のとおりです.
走向、傾斜、すべり角 = (104,80,96)/(252,12,59) 地震モーメント Mo = 8.9 x10**19 Nm (Mw = 7.2) 破壊継続時間(主破壊) T = 30 s 深さ H = 30 km 最大すべり量 Dmax = 1.85m
●解釈その他:今回の地震も解析者泣かせの地震です.
メカニズム:オーストラリアプレートの沈み込みに伴う低角逆断層かと思いましたが,遠地実体波解析では沈み込むプレートを断ち切るような立った断層面をもつプレート内地震の方が波形をよく説明するようです.また,破壊開始点の深さも30kmと深めに求まりました.USGSによる震央の位置はきわめて海溝軸に近く,もしここで起こったプレート間地震だったとしたら破壊開始点の深さはもっと浅くなるはずです.というわけでここでは高角に立った節面を断層面とした結果を示しました.
ただし,実体波波形解析から断層面を断言することはできません.USGSによる余震分布はなんとなく海溝付近に固まっているように見えますが,これから断層面を決めることはまだできません.ハーバード大学による余震のCMT解はすべて正断層であるというのも珍しいのではないかと思います.今後余震分布や津波データなども併せて調べていきたいと思います.
規模:ハーバード大学の解析では地震規模はMw7.7ということですが,実体波でみると大きく3つのイベントがあったように見えます.点震源を仮定した結果はこちらです.上で示したすべり分布はこの1つ目のイベントのものです.3つのイベントを併せて考えると破壊継続時間も150秒程度,規模も7.5-7.6程度となります.
海溝付近で起こった地震の場合,海底地形の複雑さから海面での震幅の大きい多重反射が見られます.今回地震が起こった地域も海溝付近は水深が6000mにも達するのでこのような反射波が記録に含まれていると思われますが,我々の計算方法ではこのような波は現れず,これらを震源に押しつけてしまう可能性があるので,今後注意をしながら3つのイベントについて解析をしていきたいと思います.
津波地震か?:この近くでは1994年6月2日にMw7.6の地震が起こり,津波によって多くの方が亡くなっています.(YCU地震学レポートNo.30参照のこと)この地震は津波地震であったという人もいますが,YCU地震学レポートにもあるように実体波解析からはゆっくり地震の兆候はみられませんでした.
これまでニカラグアや千島などの津波地震の解析をしてきましたが,そこでみられた共通の特徴は今回の地震では見られません.実体波の解析からみると,3つの地震が連動して起こったためトータルの震源時間関数は長くなるが,すべりは津波地震的ではなかったという感じがします.これについても今後解析を進めていきたいと思います.
(文責:山中)