地震活動評価に基づく地震発生予測研究グループ(文責:東京大学地震研究所 楠城一嘉、平田 直、鶴岡 弘)
最終更新:2009年5月
「地震活動評価に基づく地震発生予測研究グループ」(事務局、東京大学地震研究所内同研究グループ)は、地球物理学的データ(震源カタログや全地球測位システム(GPS)による地殻変動データ等)に基づく日本全土を含んだ領域の地震活動を統計予測するモデルを公募し、そのモデルの予測精度を競い合う比較研究を行う。主要目的は、統計又は物理に基づく予測手法の妥当性を検証し、地震の統計・物理法則と大・中規模地震発生の関係を理解することである。また、予測モデルの中には、限定地域だけに有効なものも考えられるので、そのようなモデルも受け付けるためにテスト地域も公募する。さらに、新たな地震予測の精度を検証する方法の開発と応用を目的とした検定方法の公募も併せて行う。これは第一回目の検証実験である。同種の実験は今後毎年行われる予定である。
日本における科学的な地震予知の実現を目指す研究では、地震発生のメカニズムの解明と、物理モデルによる予測シミュレーションの開発が重視され、統計的に厳密な予測システムの構築は、必ずしも中心課題ではなかった。しかし、来年度から始まる次期予知研究計画「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画」では、その予測システムの開発が主要課題となり、その課題を担う“地震活動評価に基づく地震発生予測”が、地殻活動予測シミュレーションと並んで新しく研究項目となった。本検証実験は、この課題の一部を担うことになる。つまり、提案された地震予知・予測手法が本当に有効か、あるいは、どんな条件で有効か等について科学的に厳密な検討ができるので、予測システム開発の基盤作りとなる。
地震予測結果を評価するカルフォルニア地域限定で先行実施されたプロジェクト"Regional Likelihood Models (RELM)" (Seismol. Res. Lett., 78(1), 2007の特集号を参照)を基にする国際研究計画"Collaboratory for the Study of Earthquake Predictability (CSEP)"が、2006年から進行中である[Jordan, 2006]。CSEPの目的は、客観的かつ透明性のある地震予測実験を実行できる研究基盤環境作りにあり、その過程において地震の予測可能性を探ることである。本検証実験は、CSEPとの共同研究計画と位置づけられる[楠城他, 2008]。
2008年の夏、南カルフォニア地震センター(SCEC)とスイス連邦工科大学(ETH)の協力により、地震研究所にCSEPのデータ処理ができる計算機システムを持つ日本の検証センター設立へ向けた準備を始めた[Tsuruoka et al., 2008]。現在は、計算機システムの稼動試験を兼ねつつ、日本全土を含む領域を実験場と見立てた(図1: pdf, jpg)、予察実験を遂行中で、異なる仮説に基づく3つの統計モデル(Triple-S、JALM、RI)が使用されている(図2: pdf, jpg)。この実験では、事前予測テスト(prospective test: 本当の将来の地震を予測し、その妥当性を検証する実験)が行われている。これは、予測した時点で結果が原理的に分からないことで、予測手法が厳密に評価されうるという考えに基づいている。
これらの基盤を活用して、日本を実験場とした地震予測検証実験を来年度から正式に始める。研究者が開発した予測モデルの性能をこの実験で客観的に検証するので、物理モデルや統計モデルの高度化・統合化の研究進展に貢献でき、その進展により,地震発生予測の精度向上が期待される。また、予測モデルの中には、限定された地域だけに有効なものも考えられるので、そのようなモデルを受け付けるために「テスト地域」も公募する。さらに、日本独自の検定法を開発できれば国際貢献ができるという認識から、CSEP等で使用されている従来の検定手法とは異なった予測精度を検証する手法も公募する。本検証実験関連の議論を、2009年度地球惑星科学連合大会の国際セッション(Global Collaborative Earthquake Predictability Research)で行う。
本検証実験は原則的にCSEPのルールに従う。これは、先行研究であるRELMのルールと同じであるので、詳細は特集号[Seismol. Res. Lett., 78(1), 2007]及び、CSEPウエブサイトを参照されたい。ここでは、日本に特化したルール等の詳細を説明する。
モデル提出前に、?地震の個数の予測値を求める位置のリスト(緯度と経度のペアのリスト)が示されているファイル(GridMLと呼ぶ)と、?予測結果の出力形式(XML形式: ForecastMLと呼ぶ)に関する説明文をダウンロードする。
その後、?の位置で予測値を求め、?の形式で結果を出力できるように、予測モデルのプログラムコードを書き換え、検証実験へ適合するようにする。もしモデルの最適化に、気象庁地震カタログが必要であれば、当センターへその旨を伝える。GPS地殻変動データ等の他のデータに関しては、当センターと相談のうえ決定する。
締め切り日(7.1)までに当センターへ提出する旨を伝える(予測モデル提案表明書(English, Japanese)の提出)。モデラーと検証センターのスタッフは共同しながら、プログラムコードを計算機システムへ取り込み、稼動できるようにする(本提案)。
1年・5年予測モデルについて、もしモデラーがプログラムコードの提出を好まないならば、その旨をモデル提案表明締め切り日(7.1)までに当センターへ伝える(予測モデル提案表明書(English, Japanese)の提出)。最終提出物は?のXML形式で予測結果を出力したファイルとする。
もしモデラーが特定域だけに適用可能なモデルの予測性能検定を試みるならば、そのテスト地域を提案表明締め切り日(7.2)までに当センターへ伝える(テスト領域提案表明書(English, Japanese)の提出)。手続きは検証センターと相談しながら進める。
該当する提案の希望者は、その旨を締め切り日(7.3)までに当センターへ伝える(予測の検定方法提案表明書(English, Japanese)の提出)。手続きは当センターと相談しながら進める。
それぞれの提案(本提案)は、表明書提出後、約2か月間をめどに検証センターのスタッフと相談のうえ提出する。
〒113-0032 東京都文京区弥生1−1−1 東京大学地震研究所内「地震活動評価に基づく地震発生予測研究グループ」事務局及び、地震発生予測検証実験センター(平田直、鶴岡弘、楠城一嘉)
D. Schorlemmer博士(SCEC)とF. Euchner博士(ETH)の協力により、検証センターの計算機システムを構築しました。ここに記して謝意を表します。
図1 日本のテスト地域(3.2.1.)。緑線で囲まれた地域で30km以浅の地震を予測対象とした検証実験を行う。領域を0.1°x0.1°の小地域に区切り、それぞれの小地域において地震の発生率を予測する。ダウンロード (pdf, jpg)
図2 一年予測モデルの例。現在の予察実験で使用中のTriple-S(左)、JALM(中央)、RI(右)。カラーバーは一年間に発生する地震の個数を示す。ただし、三つの図でカラーバーのスケールが違うことに注意。ダウンロード (pdf, jpg)