EICニュースレターNo.14


本号の目次
◇ 1999年9月21日台湾中部の地震(Mw7.7) (阿部 勝征)  
◇ 地震学ノート(菊地 正幸・山中 佳子)
◇ 並列計算いろは(その1) (檜山 澄子)
◇ 地震特集ホームページに対するアクセス状況/最新カタログ情報(鶴岡 弘)


1999年9月21日台湾中部の地震(M7.7)





(←地震断層は豊原市大甲渓に滝をつくった)
台湾中部で21日午前1時47分ごろ(現地時間)にM7.7の大地震が起こり,8500棟以上の建物が全壊した.震央は南投県集集鎮付近である.地震による被害は震源に近い南投県や台中県などの台湾中部に集中した.死者・行方不明者2484人,負傷者10718人,全半壊14661棟などの被害が出た.山岳地帯では斜面崩壊が広範囲に発生した.南投県の中寮開閉所が被災したため680万戸が停電した.日本政府は過去最大規模の国際緊急援助隊を派遣した.

 本震より6日目の26日に,M6.4の余震が発生し,日月潭で震度6を記録した.新たなビルの倒壊や崖くずれが起こり,6人が死亡,50人以上が負傷した.名間では12階建てのビルが完全に倒壊し,通りがかりの車1台が下敷きになった.

 震央付近の地名から今回の地震は「集集(チーチー)大地震」と呼ばれている.南投県竹山から台中県豊原にかけて,縦ずれ成分に富んだ地表地震断層が出現した.長さは80kmに及ぶ.断層の走向はほぼ南北で,東側が西側に対して2〜6mほど隆起した.そこは既知の車籠埔断層にあたる.

 台湾の東海岸付近では,台湾をのせたユーラシアプレートに,フィリピン海プレートが南東から衝突している.そのため,台湾の内陸部は圧縮の力を常に受けており,そのひずみによって生じた複数の衝上断層が付加体内に発達している.今回の地震では,西寄りの活断層が動いた.

 今回の台湾地震の日本への影響について,政府の地震調査委員会は10月6日の定例委員会で検討し,「西南日本の地震活動に対する影響は極めて小さいと考える.また,今回の地震の発生の前後で沖縄地方の地震活動に顕著な変化は認められていない」と評価した.[阿部勝征]


 (修正) 
最近起こった世界の地震の中からとくに興味ある地震を2つとり上げます。

EIC地震学ノート No.66     Sep.21, 99
遠地実体波解析 -----------------------------
   9月21日台湾集集地震(Ms 7.7)
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概略・特徴: 9月21日未明(現地)台湾中部の集集付近を震源とするMs7.7の地震があり、死者2千人を超える甚大被害が発生しました。我々の遠地実体波解析による震源情報は次の通りです。
 
発生時刻  震央 深さ
0920 17:47:19(UT) 23.82° N 120.89°E 11km

データ処理: IRIS-DMCから収集した24地点のデータ(P波上下動+SH波)を用いて解析しました。
結果:結果を図1に示します。主な震源パラメータは次の通りです。
 走向、傾斜、すべり角 = (22, 25, 70)
 地震モーメント   Mo = 2.7 x10**20 Nm
             (Mw= 7.6)
 破壊継続時間   T = 28 s
 断層面積      S = 80x40 km*2
 平均食い違い    D=Mo / μS = 2.5 m (μ=34GPa)
              (20kmx10km範囲の最大すべり量約6m)
 応力降下       Δσ=2.5 Mo/ S**1.5 = 3.7 MPa
解釈その他: 東側が西側に乗り上げる逆断層であること、アスペリティ(最大ずれの領域)が震源の北方約40-60kmにあることなどは概ね現地観測と整合的です。一方、地表地震断層では一部で8mを越えるオフセットも観察されています。断層周辺の強震計記録を使った詳細なすべり分布解析の結果が待たれるところです。遠方からみた震源と現地観測による震源の違いが震源過程についての新たな知見をもたらす可能性もあります。
EIC地震学ノート No.69     Oct.18, 99

遠地実体波解析 ----------------------------
 10月16日南カリフォルニアの地震(Ms 7.3)
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概略・特徴: 10月16未明(現地時間2:46)南カリフォルニアHector MineでMs7.3の地震が発生しました。USGSによる速報震源は次の通りです。
発生時刻   震央  深さ  Ms
09:46:45 (UT) 34.5° N 116.3°W shallow 7.3

データ処理: IRIS-DMCから収集した20地点のデータ(P波上下動)を用いました。観測点分布は良好です。

結果: 結果を図2に示します。浅い横ずれ断層です。断層に沿った10kmごとの平均すべり量で表現してみました。主な震源パラメータは次のとおりです。

 深さ            H = 8 km
 走向、傾斜、すべり角   =(333, 84, 174)
 地震モーメント      Mo=5.5 x10**20 Nm (Mw =7.1)
破壊継続時間       T = 12 s
 断層面積(深さ範囲15kmを仮定) S = 40kmx15km
 平均食い違い  D = Mo / μS = 3.0 m (μ=30GPa)
 応力降下  Δσ = 2.5 Mo/ S**1.5 = 9.3 MPa

解釈その他:震源は1992年6月28日のLanders地震(Mw7.3)の東側に位置します。今回の地震モーメントはLanders地震の約1/2、兵庫県南部地震の約2.5倍です。USGSのWald博士の話しでは、カリフォルニアで展開されている2つのシステム:Tri-Net ShakeMap と
CIIM (Community Internet Intensity Maps)について、いろいろなチェックができたとのことです。


並列計算いろは(その1


並列計算機には,メモリのアクセス方式により以下の3種類に分けることができます.

1)分散メモリ方式並列計算機
(DMP: Distributed Memory Parallel Computer)

2)共有メモリ方式並列計算機
(SMP: Symmetric Multiprocessor
またはShared Memory Multiprocessor)
3)SMPクラスタ.


1)の分散型は,大容量の計算に対し,文字通りメモリをそれぞれのCPUに分散します.ですから,各CPUにあるメモリを参照したり,データをやり取りしたり,同期をとったりするため,MPIやPVMなど各CPU間を通信するメッセージパッシングによって並列化します.一般に超並列計算機と呼ばれるもの,WSやPCを単に数台つなぎ並列化したものなどはこれに属します.

2)のSMPは複数のCPUがメモリを共有します.現在の技術では,計算効率を考慮して,200台程度以下のCPUで構成した中規模の並列計算システムがこのジャンルに多くみられます.ここではメモリをCPU数台で共有していますので,1)のDMPでしなければならなかった,煩雑なCPU間のメモリ参照の必要はなく,エンドユーザは,あたかも1台のCPUを使うイメージで使うことができます.さらに,程度の差はあれ,コンパイラが自動並列化機能をそなえているのも大きな特徴です.当センタのEICシステム(Origin 2000)も64台のCPUで構成しているSMP型システムです.

それに対し,1),2)をミックスしたような3)のSMPクラスタ型システムは,ノード内部では数台のCPUがメモリを共有し,ノードをまたぐ場合には,分散メモリタイプになる方式です.この並列化はまだMPIによっていますが,最近ではノード内部が共有メモリであることを生かして,ノード内部ではOpenMPやマルチスレッドライブラリにし,ノード外では,MPIをサポートする形式のコンパイラも作られています.


さて,並列計算機の一般をだいたいおわかり頂いたところで,EICシステムの並列化のお話をしましょう.先にものべましたが,EICシステムはSMPタイプの計算機です.ですからコンパイラによる自動並列機能が使えます.その他にOpenMP,指示子,並列化されたライブラリの使用することでも並列計算ができます.「自動並列や指示子,並列化されたライブラリを使用することでの並列化はうなずけますが,OpenMPってなに?」と聞かれるかもしれません.実は皆さんが自動並列化オプション-apoを使用すると,このOpenMPの並列指示子がプログラムに自動的に挿入されます.知らずに使っている方も多いでしょう.ここでのメインテーマのひとつが,コンパイラの自動並列化機能にたよらず,積極的にこのOpenMPを使って並列効率を上げることです.これは次々回にふれる予定です.

ところで「EIC計算機システム利用法」にはその他に分散タイプでのメッセージパッシング型(MPIやPVM)でも並列化ができると書いてあります.(これはSMP方式のEICシステムでMPIやPVMなどのDMP方式の並列化プログラムでも一応サポートするという意味のものです.)そのためか,MPIで並列化したいがどこに書いてあるか?と言う質問を受けます.どこか他の分散メモリ用にMPIやPVMを使って作られたプログラムをとりあえずEICで走らせてみたい方や,逆に,いずれ超並列計算機にプログラムを移植するので,EICでテストランしてみたいという場合以外に,並列化効率を上げるためにMPIを当センタで使うことはお勧めできません.労多くして益少ない結果になるからです.それでもどうしてもやってみたいと言う方にはhttp://phase.etl.go.jp にMPIを日本語訳したものやIBMRS/6000用の並列プログラミング虎の巻などがありますから参考にして下さい.また,EICでman mpiとキーインすることでも調べられます.これでこの回は終わります.


地震特集ホームページに対するアクセス状況
地震予知情報センターでは,トルコ・イズミット地震,台湾地震,メキシコ・オアハカ地震,南カリフォルニア地震に対して,ホームページによる地震特集ページを作成して情報提供を行いました.
 地震特集ページでは,地震の概要,震源過程やCMT解などの震源情報,波形データ,余震や過去の地震活動状況およびリンク集などを掲載しました.
 それぞれの日本語ページに対するアクセス数は,1999年11月12日11時現在で,

トルコ・イズミット地震 --> 11701
台湾地震        --> 43131
メキシコ・オアハカ地震 --> 2020
南カリフォルニア地震  --> 663

となっています.台湾地震はみなさんの関心が高いこと,メディアでも数多く取り上げられたこともあり,アクセス数がかなり多くなっています.図1は,日毎のアクセス数をまとめてグラフ化したものですが,前震,本震,余震活動と似た活動が見られ,統計解析を行うと面白いかもしれません.また,トルコ地震のアクセス数は地震発生後かなり後にアクセスのピークがありますが,台湾地震は地震直後にアクセスのピークがあります.これは,地震特集ページがトルコ地震の後認知された結果だと考えられます.


最新カタログ情報
http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/db/ で利用できる地震カタログの最新情報です.
JUNEC(全国地震観測網地震カタログ)Up
収録期間:1985/08/01〜1994/06/30
データ元:ftp://ftp.eri.u-tokyo.ac.jp/pub/data/junec/hypo/
NIED(防災科学技術研究所地震カタログ)Up
収録期間:1979/07/01〜1998/12/31
データ元:http://www.bosai.go.jp/center/eq-catalog/index..html
JMA(気象庁地震カタログ)  
収録期間:1926/01/01〜1997/09/30
データ元:ftp://ftp.eri.u-tokyo.ac.jp/pub/data/jma/sokuho/
JMA(気象庁一元化震源データ
収録期間:1997/10/01〜1998/12/31  
データ元:ftp://ftp.eri.u-tokyo.ac.jp/pub/data/jma/mirror/JMA_HYP/  
HARVARD(HARVARD大CMT地震カタログ)Up  
収録期間:1977/01/01〜1999/06/30  
データ元:ftp://128.103.105.101/CMT/
ISC(ISC地震カタログ Up
収録期間:1964/01/01〜1996/12/31  
データ元:ISC Catalogue 1964-1996 (CD-ROM)

システムおよびデータに関する質問・要望等はtsuru@eri.u-tokyo.ac.jp までお願いします.