● 目次 ●

緊急地震速報はまもなく提供
(阿部勝征)
新しいeic計算機システムについて
(鷹野 澄)
全国地震データ等利用系システムの更新
(中川 茂樹)
最新地震カタログ情報
(鶴岡 弘)
資料・データ等の利用状況
(鶴岡 弘)


 緊急地震速報はまもなく提供
 緊急地震速報とは,大地震が発生したとき,気象庁が震源近くの地震計でP波をとらえて震源の位置と規模を秒単位という短時間で算出し,それから予想される各地の震度などを,大きなゆれをもたらす主要動(S波や表面波)の到達前に発表して警戒を促すシステムである.各種の地震波が異なった速度で伝わる性質を利用している. 震源が遠いほど大きな揺れが来るまでの時間は長くなり,発生場所によっては数10秒の余裕がある.これを活用して大きな揺れの到達前に個人の身の安全を図ることや企業の事業継続等のために適切な対策をとることができることから,地震被害の大幅な軽減が可能となる.気象庁は07年秋にテレビなどを通して震度5弱以上の情報提供を 目指している.
  緊急地震速報には様々な限界がある.(1)内陸の浅い地震の場合に情報発信が主要動の到達前に間に合わないことがある.最大震度4以上の50例の地震を対象に調査したところ,提供までの所要時間は平均6秒であった.利用者が情報を入手するまでには,放送などの伝達に要する数秒がこれに加わる.(2)各地の震度の推定精度が十分でないこともある.推定震度と実際の震度を比較したところ,最大震度4以上となった137地域のうち,129地域(94%)で震度階級で±1以内の誤差があった.(3)地震以外の原因で誤報が発信されるおそれがある.これまで試験的に行った427例の事例のうちでは,22例(5%)の誤報があった.おもな原因は,操作手順の不備や落雷による誤信号,機器の障害などである.なお,発表の頻度については,過去の最大震度5弱以上の事例から,全国に約200ある地域のうち80%以上の地域では,発表されるケースは2年に1回以下と予想されている.
  緊急地震速報の適切な利活用が図られれば,かなりの減災効果が期待される.しかし,新しいがゆえに情報の提供は混乱を招く可能性があるため,あらかじめ速報の特性や限界について理解してもらうように確実な普及に向けての周知・啓発を提供に先立って十分に尽くさねばならない.目下の課題は,情報の出し手においては精度の向 上を図ること,情報の伝え手としては迅速・正確に情報を流すこと,情報の受け手としては情報の限界と「心得」を十分に理解しておくことである.基本的な「心得」は「あわてずに,まず身の安全を図る」ことである.

新しいeic計算機システムについて

 来る3月より、本センターの全国共同利用並列計算機システムeic(SGI Altix3700)が、新しいシステムに更新されます。
eicは、登録者約450名で、毎月120〜180名から実際に利用され、そのうちの3〜4割(時に5割以上)が、地震研の外の大学や研究所の研究者です。CPUをたくさん使うパワーユーザも毎月15〜20名ぐらいいて、年間では約50名にもなります。このように全国の地震・火山等の研究者に広く利用されていますので、次期システムについてのご関心も高いかと思います。

★仕様が決まるまで★

 4年前に現システムに更新したときには、性能が約8倍と大幅にアップしたのですが、導入後2ヵ月目にして月平均稼働率60%を超えてしまい、旺盛な計算需要に関係者一同驚きました。そこで、今回の機種更新でも、今後の大型計算需要に耐えられるように、大幅な性能アップを目指して、内外の多くのメーカに提案を求め、ヒヤリング、ベンチマークテストなどを重ねて、少ない予算ですが、可能な限り高い性能を要求仕様にまとめました。開催した仕様策定委員会は、実に計9回に及び、約9ヶ月の間、委員の先生方には大変お世話になりました。この場を借りて深く感謝します。こうして要求性能は今回も現システムの約8倍程度となり、おそらく多くの利用者の期待を裏切らないものになったと思います。

★システム構成は従来通り★

 この厳しい要求仕様をクリアして入札を勝ち取ったのが、「SGI Altix4700システム」です。システム構成は現システムとほぼ同様で、並列計算サーバ(高速版Altix4700, Itanium2, 1.6GHz,256core/512GB共有メモリ)と、高速計算サーバ(同モデル,160core/320GB)の2台の計算サーバと、フロントエンドサーバ(高密度版Altix4700,16core/32GB)からなります。利用者はフロントエンドサーバ(ホスト名eic)にloginして、並列計算サーバや高速計算サーバにバッチジョブを投入します。利用方法も現システムとほぼ同様で、大型ジョブクラスが増えるなど使いやすくなっています。詳しくは3月までに利用マニュアルのページに掲載する予定です。

★高速共有ファイルシステム★

 CPUが高速化してもファイルアクセスが遅くては全体の性能向上につながりませんので、次期システムでは、高速・高信頼性でかつ各サーバ間で共有可能な「CXFS共有ファイルシステム」を採用し、ユーザ領域/homeや作業領域/workなどを高速で共有できるようにしました。ディスクアレイの容量は、ファイルのバックアップ装置兼用で、合計54TB(実効容量)ですので、一人の最大容量も増やす予定です。

★MATLABサブシステム★

 MATLABサブシステムとしてAltix XE240(Xeon 2.33GHz, 4core/8GBメモリ)を用意しました。今回このサブシステムについても、フロントエンドサーバeicから簡単に利用できるような仕組みを用意する予定です。

★ファイル移行について★

 利用者のファイル移行は、2月26日(月)〜28日(水)を予定しています。このため2月26日に現システムを一旦停止してその後利用制限する予定ですのでこの時期に計算を予定されている方はご注意下さい。

★利用マニュアル等のホームページ★

 利用マニュアルなどは以下のページに掲載する予定です。また利用方法など準備が出来次第メールでお知らせする予定です。
http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/computer/


 新システムSGI Altix 4700システム
  手前から高速計算サーバ(3筐体)、並列計算サーバ(4筐体)、ディスクアレイ装置(1筐体)、フロントエンドサーバ、CXFSサーバx2、MATLABサーバ(1筐体に集合)

全国地震データ等利用系システムの更新
(http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/wavedb.html)
 全国の大学では約600か所に高感度地震観測点を設けています。得られた地震波形データは、各大学を結ぶ高速大容量の地上回線網を利用して相互に交換しています。これらの地震波形データは、各大学で独自に処理されています。地震波形データを提供・利用するためのシステムを地震予知情報センターが中心となって開発し、現在9大学(北海道大学・弘前大学・東北大学・東京大学・名古屋大学・京都大学・高知大学・九州大学・鹿児島大学)で運用されています。2007年3月に、このシステムを運用しているハードウェアの機種更新が行われます。
  従来のシステムではOSとしてSolarisを用いていましたが、今回の機種更新ではLinuxを用いることにしました。これにより、最先端のハードウェアを利用することができるようになり、処理速度の大幅な向上が図られました。また、ストレージの容量も大きくなりましたので、それぞれの地域のニーズに合わせた地震波形データ等の提供ができるようになっています。
  機種更新に伴い、全国地震データ等利用系システムのバージョンアップも行われます。WEBブラウザを用いた簡便な利用インタフェースはそのままに、より使いやすいシステムになっています。まず、地震波形データのダウンロードには必ずユーザ登録が必要になりました。これは、ユーザ個々のニーズに応じたきめ細かいサービスを提供するための変更です。また、イベント波形の選択画面では、震源要素や震源地名の表示を行うようになりました(図)。今まではイベントIDとトリガ地域しか表示されなかったため地震の特定が困難でしたが、そのようなことはなくなります。さらにダウンロードの波形ファイル形式としてWIN形式とSAC形式を選べるようになりました。そのほかにも様々な機能拡張や強化を行っておりますので、ご期待下さい。
  地震波形データの流通や利用においてはWIN(http://eoc.eri.u-tokyo.ac.jp/WIN/)を用いています。WIN形式は波形ファイルとチャネル情報を分離していることが特長です。このチャネル情報は大学毎に管理され、変更等があった場手動で書き換えることで保守されてきました。しかし、情報更新の遅延や手動更新による入力誤り、履歴管理ができないなど問題点が指摘されていました。そこで、地震予知情報センターでは新たに各大学が保有しているチャネル情報を分散管理する「チャネル情報管理システム」を開発しました。本システムでは、地震観測点を管理する大学でチャネル情報の変更を入力すれば、自動的に他大学にその情報が転送され最新の情報に更新されます。今回の機種更新にあわせて本システムも導入します。本格稼働は2007年上半期を予定しています。
  これらのシステムについてご質問等がございましたら、東京大学地震研究所地震予知情報センターまでお寄せください。


 

 

 

最新地震カタログ情報
http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/db/index-j.htmlで利用できる地震カタログの最新情報です。
●JUNEC(全国地震観測網地震カタログ) 
収録期間:1985/07/01〜1998/12/31
●NIED(防災科学技術研究所地震カタログ)  
収録期間:1979/07/01〜2003/06/30
●JMA(気象庁地震カタログ)  
収録期間:1926/01/01〜1997/09/30
●JMA1(気象庁一元化震源データ) UP
収録期間:1923/01/14〜2006/08/31(確定値)
●JMA_PDE(気象庁一元化震源データ) UP
収録期間:1923/01/14〜最新
(確定値+暫定値)
(* およそ一日半遅れのデータをデータベース化しています。)
*気象庁一元化データの利用については、ニュースレターNo.9 もごらんになってください。
●HARVARD(HARVARD大CMT地震カタログ) UP
収録期間:1977/01/01〜2004/12/31 
●ISC(ISC地震カタログ)
収録期間:1964/01/01?〜2004/05/31 UP
システムおよびデータに関する質問・要望等はtsuru@eri.u-tokyo.ac.jpまでお願いします。

 

資料・データ等の利用状況
  地震予知情報センターでは、大規模数値計算用の並列計算機を全国の研究者に提供しているほかに全国的規模で得られた地震観測データ等を収集、編集してデータベース化も行っています。
  以下に平成17年度の利用統計を示します。
|データベース名|提供方法|アクセス件数|アクセス数対象|
|国立大学微小地震観測網地震カタログ(JUNEC)|Web,FTP,CD|37,400|
|新J-array地震波形データベース|Web|16,691|アクセス件数はダウンロード数+波形プレビュー数|
|EIC地震学ノート|Web|474,777|各地震の解析トップページへのアクセス数|
|首都圏強震動ネットワーク(SK-net)|Web|257,564|各イベントトップページアクセス数+波形閲覧数|
|地震研究所歴史地震記録の索引データベース|Web|1,952|アクセス件数は検索回数|
|WWSSNフィルムの検索|Web|5,340|各ページへのアクセス数|
  その他、全国地震データ等利用系システム(地震予知情報センターが開発したシステムによる。今年3月に機種更新予定)で提供している、震源マップへの平成17年度のアクセス数は以下となっています。
-関東甲信越地域の地震観測データ
(震源マップ)931,331 件
-紀伊半島およびその周辺地域の地震観測データ
(震源マップ )68,072 件
-瀬戸内海西部とその周辺地域の地震観測データ
(震源マップ) 39,790 件
これらの利用には、研究者からの利用だけでなく、一般からの利用も多いと考えられます。