目次


地震学の知見を反映した東海地震対策の見直し(阿部 勝征)

3次元動画作成システムの紹介(鶴岡 弘)

「EIC計算機システムの利用法」講習会報告(鶴岡 弘)

EIC地震学ノートより抜粋(山中 佳子・菊池 正幸)



 地震学の知見を反映した
東海地震対策の見直し
 国の中央防災会議は2001年1月に,大規模地震対策特別措置法による地震防災対策強化地域の指定について見直すことを決定した.それを受けて「東海地震に関する専門調査会」は最近25年間の科学的な知見を見直しに反映させ,「ナス形」の新しい震源域を公表した.毎回白熱した議論から,想定東海地震については東南海・南海地震との同時発生の可能性を10年程度後に再検討することとしてそれを報告書に盛り込むこと,東南海・南海地震についても新たに専門調査会を立ち上げることになった.
 次の「東海地震対策専門調査会」は02年3月から,新たな震源モデルに基づいて被害の想定や防災対策の見直しを進めた.それらの検討結果をもとに,中央防災会議は国のマスタープランである「東海地震対策大綱」を03年5月に公表した.被害想定では,予知がなされることをこれまで前提にしてきたが,今回は予知がなされない場合も策定した.このことは静岡県の防災計画では既に織り込み済みのことであるが,国としてそれを追認したことは地震予知の現状認識という面で意義深い.大綱に次の文言が明記された.「現在の地震予知は,プレスリップ(前兆すべり)という地震の直前現象を捉えるものであり,この直前現象をとらえるための体制整備を図ってきていること,また,プレスリップ以外の現象をもとに予知情報を出すのは難しいことなど東海地震やその予知について,さらには,東海地震で予想される被害についての正確な知識を広報,普及する」
 3つ目の話題は「観測情報」の取り扱いである.観測情報とは,想定東海地震に関連して,「判定会」の招集には至っていないが,観測データの推移を見守る必要が生じたときに気象庁が発表する情報である.警戒宣言が発令される前の防災の立ち上がり情報としては,判定会が招集されたときに出される「判定会招集連絡報」があるが,今回の「大綱」では,強化地域が拡大されたことを踏まえて,観測情報をさらにその前倒し情報として活用することにした.観測情報の第1報は注意喚起情報とし,次の情報は準備行動を促すための注意情報になることもある.話は4年ほど前に遡るが,予知可能の前提条件をあいまいにしたままで観測情報を段階分けすることはかえって世間を混乱させるだけであると判断し,段階分けに反対したことがある(詳しくは,日本災害情報学会誌「災害情報」(No.1,2003)の拙稿を参照).今回対象とすべき現象がプレスリップに限定されたことによってその懸念は一応払拭された.
 計21回の審議を経て東海関連の調査会はひとまず終了した.目下は,「東南海・南海地震等に関する専門調査会」が進行中である.



3次元動画作成システムの紹介

 近年,大規模な科学技術計算および数値シミュレーション等の研究が盛んに行われていますが,それらの結果を効率的に可視化するためのシステム(3次元動画作成システム)を初めて導入しました.ここでは,システムの概要を述べるとともに,2つのアプリケーション(EarthClipおよびEarthquake Historical View)の特徴や開発環境について説明します.
システム概要

システムはOSにOrigin2000と同様のIRIXを搭載した動画作成システムおよび動画表示システムから構成され,表示には可視化のデモもできるよう43インチのプラズマディスプレイを2台導入しました.仕様の詳細は以下となります.

動画作成システム
SGI Origin300 1台
MIPS R14000A(600MHz)プロセッサ ×4
73GB ディスクドライブ ×2,4 GBメモリ

動画表示システム
SGI Octane2 Visual Workstation 1台
MIPS R14000A 600MHz プロセッサ
2GBメモリ,36GB ディスクドライブ×1
V12 グラフィックス(Dual Channel 仕様)
パイオニア43V型高精細プラズマディスプレイ ×2

地震波動伝播可視化ソフトウェア
(EarthClip)
 
地震波は媒質境界で何度も反射・屈折を繰り返しながら伝わります.また,柔らかい堆積層に覆われた地表下では地震波が強く増幅され,長い時間揺れが続きます.このような3次元不均質媒質中の地震波動伝播のシミュレーションには,差分法や有限要素法などが良く用いられますが,同時に計算から求められた4次元波動場(3次元空間*時間)の膨大なデータを適切に処理(可視化)する道具も必要になります.
Earth Clipは,地震波動の数値シミュレーションで得られた4次元データを可視化するためのソフトウエアです.計算結果をVolume Rendering法により3次元表示し,マウス操作で視点を動かしながら地震波の伝播する様子をリアルタイムに画面表示することができます.地震動を可視化するとき,その強さに応じた色と透明度をパラメータ(Look Up Table)として与えることにより,揺れの一部を選択的に表示することができます. 例えば,振幅の小さな散乱波を消したり(大きな透明度に設定する),あるいは逆に強調したりすることが可能です.境界面の位置や海岸線のデータをファイルから読み込んで,画像に重ねて表示することもできます.これにより,境界面で地震波が屈折・反射する様子をよく理解することができます.このようにして可視化した数十枚の画像を連続的に表示することにより,地震動の伝わる様子をアニメーション表示します.一般にVolume Renderingの計算には多くの処理を必要としますが、Earth Clipではこれをハードウエアで実行することにより,リアルタイムに画像処理と表示を行ないます.左の図はEarth Clip によるスナップショットです.
地震カタログ3次元可視化ソフトウェア
(EarhquakeHistoricalView)
 本センターでは,国立大学地震観測網地震カタログ(通称JUNEC)をコンパイル・作成していますが,そのような地震カタログを3次元的に可視化してプレートの形状を詳細に調べたり,地震活動の特徴などを簡単に議論できるようにするためのソフトウェアがEarthquake Historical Viewです.OpenGLというソフトウェアを用いており,3次元表示領域内を自由に動的視点移動(フライスルー)を行うことができます.以下の図はそのスナップショットです.
Earthquake Historical View用の海岸線データを任意の領域に従って作成するソフトウェアも整備してありますので,様々な地震カタログの3次元可視化が簡単にできます.
開発環境
EarthClipおよびEarthquakeHistoricalViewに利用されているライブラリや開発環境もこれらのシステムで利用可能です.豊富なサンプルやMakefileも用意されていますので,簡単に3次元可視化アプリケーションが開発可能です.紹介したアプリケーションのマニュアルおよび開発環境のマニュアル類は以下のURLをご参照ください.
http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/computer/manual/lx/3d/
 


「EIC計算機システムの利用法」
講習会報告
 Altix3700システムを中心にしたEIC計算機システムについて,例年同様に初心者講習会を実施しました.講習会はこれからEIC計算機システムを使いたい人を対象としたコースで,5月22日(木)13:30-15:30 に実施しました.講師は情報センターの鶴岡とSGI 竹嶋・松本が務め,講習会の内容は
  1. システム概要
  2. 利用者環境
  3. eicのバッチジョブPBSとその利用法
  4. 出力装置の利用法
  5. プログラムの移植とバイナリデータの取り扱い
  6. コンパイラと科学数値計算ライブラリ
  7. アプリケーションソフトウェアの利用法
です.
 講習会への参加人数は18名で,システムが今年3月に更新したこともあり,新入生以外の方からも多数の参加がありました.
 なお,EIC計算機システムの利用法は
http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/computer/manual/lx/
で随時更新していますので,そちらを適宜ご参照ください.
講習会の様子

 

★★★ EIC地震学ノートより抜粋 ★★★
EIC地震学ノート No.135   Jun. 16, 03
◆遠地実体波解析◆ ---------------------------
2003年5月26日宮城県沖地震(Mj7.0)
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概略・特徴

 5月26日午後6時24分(日本時間)に、 宮城県沖で Mj7.0の大地震が発生しました。岩手県、宮城県 では震度6弱を記録するなど広い範囲で大きな揺れを感じました。
東京でもかなりの揺れを感じました。気象庁による速報震源は 次の通りです。

発生時刻
震央
深さ
M
03/05/26 18:24 (JT)
38.81°N 141.65°E
71 km 7.0

 

解析結果

 主な震源パラメータは次のとおりです。(図)

(走向、傾斜、すべり角) (190, 72, 101)
地震モーメント  Mo = 3.8 x10**19 Nm (Mw = 7.0)
破壊継続時間(主破壊) T = 10 s
深さ H = 75 km
断層面積 S = 15 km x 15 km
食い違い Dmax = 2.7m
応力降下 Δσ = 28 MPa

     

 

解釈その他
 沈み込む太平洋プレート内の地震と考えられます。 今回の地震は潜り込み方向に働く圧縮力による震源メカニズムです。この付近で起きたプレート内地震としては最大規模です。今回の地震は1978年6月12日の宮城沖地震(Mj7.4)の地震のアスペリティの北に位置します。(右上図のコンターは1978年のすべり分布。 コンター中色の塗られたところが1978年のアスペリティ)
1978年6月12日の宮城沖地震(Mj7.4)の地震の4ヶ月前の2月20日(Mj6.7)にも今回よりやや海溝側でやはりプレート内地震が起きました。今回の地震が近い将来起こるとされる宮城沖地震にどう影響するのか気になります。