《目次》


想定東海地震の被害予測(阿部 勝征)

自治体防災担当関係者と研究者の集い(菊地 正幸)

SGI LX 3000システムについて(鷹野 澄)

EIC計算機利用マニュアル(鶴岡 弘)



 想定東海地震の被害予測
 国の中央防災会議「東海地震対策専門調査会」は,発生が懸念されている想定東海地震について国としての被害想定を03年3月にまとめた.ゆれや液状化,津波,崖崩れ,火災により最悪の場合,1都9県で建物の全壊は約46万棟,死者は約1万人,重傷者は約1万5千人にのぼる.住宅や企業施設の損壊などによる直接被害は約26兆円,それと生産停止や交通まひなどによる間接被害を合わせた総被害額は約37兆円に達する.阪神・淡路大震災による直接被害は約10兆円と推計されており,単純に比較はできないが,今回の見積もりはそれを大きく上回る.被災地では発災から1日後の避難者数は約180万にのぼり,仮設トイレは約1万基不足する.予知がなされた場合には,死者は2400人,経済的被害は約31兆円に減る.また,警戒宣言発令に伴う経済的影響は,1日あたり約1700億円と見積もられている.今回の被害想定の大きな特徴は,県境を越えた被害や津波による被害,警戒宣言発令による経済的影響を国として初めて算出したことにある.これらの想定結果は地震対策を今後進めていく上での基礎資料となる.
 難しかった被害想定の一つは津波である.強いゆれの直後に住民全員が素早く高台に避難すれば死者は出ないことになる.住民の避難行動の実態によって被害想定は大きく変わるが,それに関するデータは少ない.最近の例として10年前に奥尻島に大きな津波被害を与えた北海道南西沖地震がある.奥尻町で地震後即座に避難した住民の比率は71%であり,この例は避難意識が高いケースである.別の例は,20年前に秋田県・青森県に津波被害を与えた日本海中部地震である.避難行動を即座にとった人の比率は約20%であり,この例は避難意識の低いケースになる.結果として午前5時に発災したケースでの想定死者数は,避難意識が高い場合に約400人,低い場合には約1400人に及ぶ.さらに,最近増えている水門の閉鎖不能などによって約2200人に増大する.この最悪のケースでは,津波による犠牲者は全想定死者数の2割を超える.今回開発された手法は今後の津波被害の想定に参考になるであろう.それはそれとして,住民の意識啓発や海岸保全施設の整備点検などを一層推進していくことによって,津波による犠牲者をなくすということが新たな課題になる.また,予知がなされた場合でも,避難しない一定数の住民が予想されるために,想定死者数は零にならない.この被害を軽減することも今後の課題である.
 



自治体防災担当関係者と研究者の集い

本ニュースレターで何度か取り上げましたが、現在、地震研究所では首都圏自治体等の協力の下に、『首都圏強震動総合ネットワークシステム(愛称:SK-net)』が稼働しています。このシステムは、高密度かつ広範囲の強震動データを研究者に提供するとともに、得られた成果を社会に還元していくのが目的です。このような観点から、単にシステムの運用だけではなく、自治体担当者と研究者の間のコミュニケーションを図ることも重視しています。
 先月3月18日に、第2回目の「担当者の会」が開かれました。会合には自治体関係者23名、気象庁及び大学の研究者12名、計35名の出席がありました。予定時間を大幅に延長しましたが、ほとんどの参加者から貴重かつ忌憚のない意見が出されるなど、有意義な会合となりました。

会合メモ  第2回首都圏強震計ネットワーク担当者の会

【日時】 平成15年3月18日(水)      14:00〜17:30
【場所】 東京大学地震研究所講義室(新館2階)

【報告&話題提供:発表者】

  SK-netのデータ収集状況や共同利用状況: 鷹野 澄(地震研)
  首都圏と南関東の大地震: 菊地正幸(地震研)
  首都圏の地下構造モデルと地盤モデル: 纐纈一起(地震研)
  気象庁における強震観測: 西前裕司(気象庁)
  名古屋の現状について: 中野 優(名古屋大)
  強震データを用いた揺れ易さマップの作成: 泉谷恭男(信州大)
  地震マップの活用について: 乾 晋(横浜市)
  被害想定とその活用への取り組み: 小澤謙一(静岡県)

【自由討論】
 出席した全ての自治体関係者からいろいろな発言がありました。以下、主なものです。

強震計の検定はお金も時間もかかる。なんとかならないか。
被害予測システムでは精度の高い揺れの予測が重要である。
地下構造調査をしたいが予算がつかないので、大学の大大特プロジェクトに期待している。
通信費やセキュリティの問題があり、まだデータ提供ができない状況である。
設置して6年経ったが、データの有効利用ができていない。ぜひ研究者に使ってほしい。

 ほとんどの自治体がデータを研究者に提供することに前向きでしたが、同時に、波形データ収集システムを整備したり更新する予算がないという共通の悩みを抱えているようでした。これに対し地震研究所からは、震源から強震動発生域までの広い範囲の強震データを揃えることは、強震動の研究上きわめて重要であり、今後、データ収集システムの設置費用等を含むサポート体制について、具体的に相談させて頂きたい旨の発言がありました。

【出席者所属一覧:順不同】
栃木県消防防災課 長野県危機管理消防防災課
茨城県消防防災課 神奈川県防災局災害対策課
神奈川県温泉地学研究所 群馬県消防防災課
東京都総務局災害対策部 東京都消防庁
千葉市防災対策課 埼玉県消防防災課
静岡県防災情報室 千葉県消防地震災害課
千葉県環境研究センター 千葉県地質研究所
川崎市防災対策室 横浜市危機管理対策室
山梨県総務部消防防災課 気象庁
信州大学工学部 横浜市立大学総合理学研究科
名古屋大学環境学科 東京大学地震研究所

当日の会合の様子


SGI LX 3700システムについて
 前号に引き続き、3月からサービス開始された新システムの並列化性能などについてご紹介します。
★日本名は「SGI LX 3000」★

米国では「SGI Altix 3000」ですが,日本では商標の関係でAltixという名前が使えず「SGI LX 3000」と名付けられました。
LX 3000には、LX 3300 ServerとLX 3700 SuperClusterの2種類のモデルがありますが、本センターが導入したものは、3台ともにLX 3700 SuperClusterです。このため以下では、シリーズ全体のことを言う場合にはLX 3000と呼び、本センターのeicのことはLX 3700と呼ぶことにします。
(写真 本センターに導入されたSGI LX 3700システムの概観)

*4/16から日本でもAltix3000と呼ばれるようになりました*

 

★CPU単体性能は現時点で最高★
 LX 3000で採用しているIntel Itanium2の単体性能は、浮動小数点演算の性能を示すSPECfp値で見ると1431(マシンはHP)で現時点での最高速を誇っています。
★並列化性能も現時点で最高★
 LX 3000の並列化性能を、浮動小数点演算の並列化性能を示すSPECfp_rate値で比較してみると、これも今のところ最高の並列化性能を誇っています。
 図1は、他の複数の機種で最高のSPECfp_rate値とLX 3000のSPECfp_rate値を比べたものですが、いずれもLX 3000がトップであるだけでなく、CPU数に比例して値が大きくなっています。これは、LX 3000では、並列CPU数を64CPUまで増やしたとき並列化性能があまり頭打ちにならないことを意味しています。このようなことから64CPUの場合、他機種に比べて約2倍と圧倒的な性能が得られています。
★Origin 2000の8.8倍を達成!?★
 利用者数名に、以前のOrigin 2000システムとの性能比較を伺ったところでは、多くの方から4〜5倍以上速いとの感想を頂いています。図2は、あるユーザから頂いた具体的な性能比較のデータですが、この方のジョブの場合は同じCPU数で6倍以上の高速化が得られています。特に、16CPUのときは8.8倍も高速化されたようです。
★MPIジョブが特に速い!★
 図2のユーザジョブは、MPIで並列化されたものでした。本センターの予備調査でも、MPIで並列化されたジョブに対し、LX 3000は他の機種に比べて非常に優れた並列化性能を示していました。前のOrigin 2000システムもMPIジョブの並列化性能は悪くはなかったのですが、今回導入したLX 3700では、MPIに関してはさらに効率よく並列化されるようです。
★大量の共有メモリで使いやすく★
 LX 3000は共有メモリ型並列計算機です。1台のシステムの中では、どのCPUからもメモリが利用可能であるため、複数のジョブが実行されている本センターのような場合、大量の共有メモリが無駄なく使えるというメリットがあります。本センターでは、E,Fジョブ用の並列計算サーバ(64CPU)と、B,C,Dジョブ用の高速計算サーバ(32CPU)にそれぞれ128GBのメモリを載せています。また、AジョブとTSS用のフロントエンドサーバ(12CPU)にも32GBのメモリを載せています。前のシステムでは、全体で40GBしかなくて、メモリ不足で利用できないことがままありましたが、新システムLX 3700ではメモリに関しても十分ご満足いただけるものと思います。
★Linuxのプログラムがそのまま動く!★
 3月にサービス開始してすぐに、「Linuxで使っているプログラムがそのまま使えるのがうれしい」という感想を頂きました。確かにそのとおりですが、Itanium2は64ビットマシンですので、eicのコンパイラでコンパイルするとさらに速くなるのではないかと思います。また、Linuxユーザの声を受けて、Intel のMKL科学技術計算ライブラリも現在試験的に利用可能にしています。
★並列化のおまじないdplace★
 LX 3700で並列計算をする場合に、特に注意したいのは、必ずdplaceを使ってプログラムを実行するという点です。dplaceはプログラムやデータのメモリ配置を並列計算用に最適化するものです。予備調査によれば、このdplaceを使わない場合、数割以上遅くなるという結果が出ています。
 その他、並列計算をより効率よく行うためのツールやノウハウについては、後述の利用マニュアルの該当する解説をご覧ください。
☆LX 3000の第1号機の記念の楯☆
 3月28日に、米国SGI社社長兼CEOのRobert Bishop氏が本センターを訪問されて、「LX 3000の第1号機の記念の楯」を贈呈して頂きました。(写真参照)


 

 

EIC 計算機利用マニュアル

 3月に導入された新しい並列計算機システムであるSGI LX3700の利用マニュアルが 
http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/computer/manual/lx/
にあります.このマニュアルの中では,バッチジョブスクリプトの作成方法・バッチ投入の仕方など計算機利用の基礎から,プログラム並列化の性能解析まで幅広く記述されています.マニュアルはまだ完成していませんが,最新の情報を載せていきますので,計算機利用の際に疑問が生じた場合にはまずこれらのページで確認してください.メール等でも随時みなさんにお知らせしていく予定です.

【目次】
EIC計算機システムの利用法
http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/computer/manual/lx/start/
  1. システム概要
  2. 利用者環境
  3. eicのバッチジョブPBSとその利用法
  4. 出力装置の利用法
  5. プログラムの移植とバイナリデータの取り扱い
  6. コンパイラと科学数値計算ライブラリ
  7. アプリケーションソフトウェアの利用法

EIC計算機でのプログラミング、コンパイルおよび並列化
http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/computer/manual/lx/prog/

  1. シングルプロセッサプログラム
  2. デバッグ
  3. 時間計測関数
  4. 並列プログラム
  5. 並列プログラムの実行:dplaceコマンド
  6. 性能解析ツール
  7. バイナリデータの取り扱い
  8. SACデータファイルの読み込み
  9. Rdseedデータファイルの書き込み
  10. 付録

プログラム移行上の注意
http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/computer/manual/lx/porting/

  1. 数値計算ルーチン
  2. ダイレクトアクセスのファイルサイズ
  3. WRITE文からの出力形式
  4. MPIモジュール

三次元動画作成表示システムの利用法
http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/computer/manual/lx/3d/

  1. 三次元動画作成表示システムの構成
  2. 三次元動画作成および表示システムの利用
  3. EarthClipの利用法
  4. EarthquakeHistoryViewの利用法

 5月22日(木)13:30-15:30,地震研講義室にて初心者講習会を開催いたします.これからEIC計算機システムを使いたい人は是非ご参加ください.
 また,プログラム並列化に関する中級者向け講習会を計画しています.ご期待ください.