ニュースレターNo.27

《目次》
次期計算機システムの仕様が決まるまで(鷹野 澄)

地震の波動場のモニタリングによるリアルタイム地震解析システムの 紹介(鶴岡 弘)

インターネットからのアクセス回数(菊地 正幸,鶴岡 弘)



 次期計算機システムの仕様が決まるまで
 来年3月より、本センターの全国共同利用計算機システムeic(SGI Origin 2000)が、新しいシステムに更新されます。eicには毎月150名以上がloginし、CPUをたくさん使うユーザも全国に約20名ほどいます。利用者は地震研内に限らず、全国の大学・研究所等から利用されています。このため次期システムについてご関心の高い方も多いかと思います。そこで今回は、次期システムの仕様が決まるまでの経過をご報告いたします。
 計算機システムを更新するには、まず次期システムの概算要求を出します。それを評価して次期システムに必要なレンタル費が決まるというのが建前です。しかし、現実は出された概算要求の中身は評価されることなく(全国一律に)レンタル費が2割削減されてしまいました。理由は、「同じ計算機を4年間でなく5年間借りなさい」というものです。いまどき同じ計算機を5年間も借り続けることができるでしょうか?仕様策定委員会ではまずこの問題を審議し、結局「次期システムも4年で更新する」ことに決定しました。その結果予算が削減になるので「予算のほとんどを計算機本体にあてる」ことにしました。
 eic計算機システムの利用状況は、前号のニュースレターにグラフを掲載していますが、導入当初から2年で約3倍もCPU利用時間が伸びています。この背景には、近年の地震学分野におけるシミュレーションを活用した研究の進展があります。また導入後2〜3年でフル稼働になったのは、CPUの性能が約10倍でメモリも数倍に増やしたことにより、従来より高精度の計算が可能になり、新たな大規模計算も可能になった結果ではないかと推察しています。
 次期システムの更新でも同様に、研究の進展につながるような新たな大規模計算の創出が期待されます。ただそれには少なくともこれまでと同様に「8倍以上のCPU性能のアップと数倍以上のメモリ増」が必要と考えられます。この4年間で1台のCPU性能は3〜4倍しか伸びていませんので、結局今の2倍のCPU(128台)の並列計算機が必要になります。しかし、2割も削られた予算では、これはもうほとんど絶望的です。このような苦しい状況のもと、外部委員2名を含む仕様策定委員会のメンバーは、それでも諦めることなく「少ない予算で可能な限り速い計算機を入れたい」との一心で仕様策定作業に臨みました。
計算機システムの調達手続きは約1年間の長丁場となります。今回の機種更新も昨年の暮れから準備をはじめ、今年の1月には「資料提供招請の官報公告」を行い数社から分厚い提案を頂きました。その提案書を詳細に検討し各社説明会も開催して、5月に最初の仕様書案を作成し「仕様書案に対する意見招請の官報公告」を行いました。これには同じく数社から新たな提案を含んだご意見を頂きました。またベンチマークプログラムを作成して提案各社にテストをお願いして参考にしました。このような努力の結果、今の約6〜7倍の性能要求を仕様書に盛り込むことができました。仕様書は7月に完成し「入札公告」を行いました。この入札の結果については、次回のニュースレターにてご紹介したいと思います。
 7月の仕様書完成までに開催した仕様策定委員会は計10回に及びます。これは、最近にない多い回数です。また外部委員の方にはベンチマークプログラムを作って頂き、各社提案を詳細に評価していただくなどで大変お世話になりました。この場を借りて深く感謝いたします。
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地震波動場のモニタリングによる
リアルタイム地震解析システムの紹介

 科学研究費基盤研究B「地震波動場のモニタリングによるリアルタイム地震解析システム」において,現在開発中のシステムを紹介します.このシステムですが地震研究所一般公開(7月25・26日)でデモを行いましたので,既にご覧になった方もいるかもしれません.
 現在,高感度や広帯域の地震波形データは,衛星テレメータシステム等が整備され,リアルタイムで集配信されるようになりました.本システムはこれらのデータから長周期(10秒以上)の波を利用して,地震の発生(震源時)・発震機構(CMT解)・地震の大きさ(モーメントマグニチュード)を同時に決定してしまおうというシステムです.従来の地震解析システムでは,初動等により決められた震源速報(気象庁有感地震情報,QED等)をトリガーとして動き出すシステムがほとんどです.メカニズムの決定そのものは計算機処理能力の向上により時間がかからないものの,情報取得にメールを利用するためタイムラグが生じるという問題がありました.あるいは,メールそのものが配信されずに地震解析システムが動作しないという場合も考えられます.今回紹介するシステムでは,利用する波形の解析時間幅である2分後に上記の震源パラメータを同時決定するという新しいかつパワフルなシステムです.システムとして自己完結していますので,稼働のチェックや維持が格段に向上します.今のところ東海沖地域や茨城沖など領域を限定してモニターしていますが,今年度中には複数のPCを稼動・連携させ,関東全域(400km x 400km x 100km )をモニターする予定です.システムは複数のプログラム群からなっていて,非常に柔軟性の高い構成になっているのが特徴です.プログラム群の中には,リアルタイム波形モニターツールなども含まれており,様々な用途に利用可能です.
 それでは,まず最初にどのように地震発生と発震機構を同時決定するのかについて説明します.モニター対象領域(3次元領域)を10km間隔の格子に分け,格子上に仮想震源をおきリアルタイムに得られる地震波形データ1秒毎にCMT解をすべての仮想震源において求めるということを実行します.地震が発生していない場合には,観測波形と理論波形の一致度のパラメータ(Variance Reduction)が悪いのですが,地震が発生したときには特定の仮想震源および時刻の周辺で一致度の良い値が得られることによって地震発生を同定します.このような処理を行うためには,処理能力の高い計算機が必要であることはもちろんのこと,CMTインバージョンに用いる仮想震源と観測点の組み合わせに対応したグリーン関数をメモリ上にロードすることが重要です.また,極力無駄な処理をしないようにシステムを最適化することも重要な要素です.
 次に,システムの概要について説明します.システムは役割に応じた比較的小さなプログラムから構成され,それらを結合してシステムを構築します.大まかに分類すると(1)データ受信(recvt,order),(2)フィルタリング処理(ecore2),(3)共有メモリから標準出力への変換(shmdump),(4)CMTインバージョン(rmtinv),(5)可視化およびモニタリング(mtplot) (6)地震の検出(mtx)になります.この中で処理時間がかかるのはもちろん(4)のCMTインバージョンの部分になります.モニター領域を大きくするためには,(4)を並列化させ,うまく処理を分散させることが必要になります.
 次に,システムの出力例を一つ示します.2001/06/01 00:41 に静岡県中部で発生したMj=4.8の地震についてです.図1にこのシステムで決定された震源の位置と観測点配置を,図2に最適解における理論波形・観測波形・発震機構等が示されています.このような解は図3における解析結果をもとに自動的に検出されます.図3は最適解が得られる+-7秒間の各仮想震源において,インバージョンによって求められるモーメントマグニチュードに理論波形と観測波形の一致度を表すパラメータの論理積の大きさで発震機構を表示したものです.このような表示を行うことによって,地震の場所が10km程度の精度で,時間的には2〜3秒程度で決定されることが分かります.この地震の気象庁一元化震源は,発震時:2001/06/01 00:41:45.83,東経:138.111,北緯:34.911,深さ:30.27kmですので,このシステムによって得られる震源要素(2001/06/01 00:41:47,東経:138.1,北緯:35.0,深さ:29km)を比較すると,発震時については約1秒の違い,位置についても精度良く求められていることが分かります.さらに,Freesia プロジェクトによるメカニズム解と良い一致を示しています.
 最後になりますが,このようにリアルタイムに得られる長周期の地震波形データを活用して常時震源パラメータを決定していくことによって新たな知見が生まれる可能性が出てきました.連続的にシステムを稼働させて行くにはまだまだクリアする問題が残されていますが,よりよいシステムの構築を今後も続けて行きたいと考えています.
*本文中で記述のあるリアルタイム波形モニターツールは、
http://eoc.eri.u-tokyo.ac.jp/WIN/index.html
よりダウンロード可能です。
図1 観測点配置と震源位置 図2 システムにより決定された最適解


各図に表示されている時間は実時間に対して2分減じた時間を示しています。

図3 システム稼動時のスナップショット
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◇◇インターネットからのアクセス回数◇◇
(東京大学自己評価書から抜粋)
  『全学テーマ別評価自己評価書−研究活動面における社会との連携及び協力』(平成14年7月)と題する報告書が東京大学から出されました。その中にインターネットを 通した研究成果公開の例として、本センターの活動が紹介されています。以下、その抜粋です。図は本稿で付け加えたものです。
                  ★     ★     ★
 ・・・地震研究所は、全国規模で得られた地震観測データの収集、整理、提供を行っている。また、全国広帯域地震計観測網を通じ、国内外の研究者等に対して広帯域地震計の連続波形データを提供している。表2-7に、国内外の地震に関する情報を提供する 「地震特集ページ」へのアクセス数統計を示す。年間15万件を越えるアクセスがあり、データが広く用いられていることがわかる。また、地震予知情報センターのリアルタイム地震学研究に関する情報である「EIC地震学ノート」へのアクセス数を表2-8に示す。アクセス数は年を追うごとに増え、2001年度には16万件を数え、研究情報の利用が活発であることがわかる。・・・


表2-7 地震特集ページへのアクセス数

年度 アクセス数
1999 130,821
2000 137,805
2001 159,206
2002 49,719
(2002年度は6月まで)

表2-8 EIC地震学ノートへのアクセス数
年度 アクセス数
1998 20,569
1999 54,184
2000 104,441
2001 160,100
2002 53,557
(2002年度は6月まで)
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