ニュースレターNo.25


目次
◇全国の地震観測データのリアルタイム流通システム(鷹野 澄)
◇EIC地震学ノートより抜粋(菊地 正幸・山中 佳子)
◇RAの部屋(中東 和夫)/最近のウイルス情報(鷹野 澄)


全国の地震観測データのリアルタイム流通システム
防災科研、気象庁、大学では、この4月から、気象庁約200点、大学約250点、防災科研Hinet+関東東海ネット約600点など 我が国における高感度地震観測点の波形データのほとんどすべてを全国にリアルタイムで流通さ せるシステムを開発し運用開始する。またこれにより、現在防災科研や各大学でインターネット経由で公開して いる波形データもより充実したものになる。

この新しい地震データ流通システムは、防災科研、気象庁の各管区、大学の衛星中継局の間の相互データ交換を行う地上系と、大学の衛星中継局から通信衛星を介して全国に地震データを配信する衛星系からなる(図1)。
衛星系では、全国1000点以上の地震観測点の波形データが全国どこでもリアルタイムで利用できるという画期的なシステムとなっている。
(図1)高感度地震観測データの流通システムの概要

     (図2)地上系におけるデータ交換方式の概要
図2は東京大手町にある防災科研の東サブセンター内に設置された地上系のデータ交換システムの概要である。
ここでTDX(Tokyo Data eXchange)は機関相互のデータ交換のための専用LANで、各機関は自分のデータをTDXに流し、他機関のデータをTDXからチャネルを選択して取り込むようになっている。ここに、大学の衛星中継局から、あるいは、気象庁の各管区から、地上回線を介して地震波形データが集められデータ交換が行われている。
ところで防災科研のHi-netでは、従来大学や気象庁で採用されていたWIN方式ではなく新たな独自データ転送方式(Hi-net方式)が採用されている。このため、従来のWIN方式と新しいHi-net方式の間のリアルタイムデータ変換システムが必要になる。これについては防災科研が開発を担当し図2のようにTDXとHi-netシステムの間に設置されている。
 大学の衛星中継局では、図2のデータ交換によって得られた防災科研や気象庁のデータを従来の衛星システムを用いて全国に配信している。ここでは、Hi-netの高感度24ビットサンプリングデータを衛星系に渡す際に、バックグラウンドのノイズレベルを考慮して下位ビットを少し落とす処理を実施して6Mbpsの配信用衛星回線に収まるようにしている。
 図3は、配信系のデータを受信して利用する場合のシステムの構成例である。通常は衛星系のデータをすべて利用する事は少なく、必要な観測点を選んで利用する。データ処理も目的に応じて複数の処理システムを用意する。衛星から受信したデータはLANを介してそれら複数の処理システムに渡される。もし衛星システムに配信されないローカルな観測網を持つ場合はそのデータを同じくLANに流すことにより衛星からのデータと区別なく処理することが可能になる。 

多くの人は1000点を越す膨大な観測データなど使えないとしり込みするかもしれない。Hi-netのデータベースが防災科研にあるのでそれで十分と思うかもしれない。しかしデータ量が膨大であるからこそリアルタイムで配信することに意味がある。波形データの中には未知の情報がたくさん埋もれている。既存の地震データベースではそれを発掘することは困難であろう。データがリアルタイムで入手できることはそのような研究を容易にするであろう。地震活動のモニタリングシステムの研究はこれまでは一部の大学でしかできなかったが、今後は全国どこの大学でも行えるようになるだろう。これらは、阪神大震災以降、我々関係者が念願としてきたことである。今後本システムにより我が国の地震研究が一層発展することを祈念したい。

    (図3)受信側での衛星データの利用システム
 最後に波形データ以外の地震データの流通についても触れておきたい。震源情報については、すでに1997年10月から気象庁において大学や防災科研の観測データが一元化されており、大地震から微小地震までの震源が翌日の夕方頃までに速報震源として気象庁から各大学等に提供されている。この震源データは、地震研のFTPサイトでも大学や国立研究所向けに提供している。一方、観測点の読み取りデータについては、気象庁では迅速な震源決定の為に、一部の観測点のみの読み取りが行われている。このため残りの観測点の読み取りを防災科研が行う予定で、波形データと併せて防災科研から公開される予定である。


★★★EIC地震学ノートより抜粋★★★
EIC地震学ノート No.117   Mar.04, 2002
◆遠地実体波解析◆
2002年3月3日
アフガニスタン東部の稍深発地震(Ms.7.2)

●概略・特徴
 3日16時38分(現地時間)、首都カブールの近くを震央とする稍深発地震(深さ約200km)がありました。山岳部で土砂崩れが村を直撃し、150人が土砂の下に生き埋めになって死んだとの報道もあります。
 USGSの速報震源(QED)は次の通りです。
  発生時刻     震央  深さ Mw
12:08:06.2(UT) 36.44°N 70.45°E 214km 7.3

●解析結果(図1)。
 (走向、傾斜、すべり角)=(279, 25, 84)
地震モーメントMo = 8.8x10**19 Nm (Mw = 7.2)
破壊継続時間(主破壊) T =約10 s
深さ(破壊開始点)    H = 220 km
断層面積(主破壊) S = 30km ×30 km
 食い違い  Dmax = 2.2m
 応力降下   Δσ = 8.1 MPa

●解釈その他
 この付近では過去にも大きな稍深発地震が発生しています(図1の背景図は杉・ほか(1991))。インドプレート・ユーラシアプレートの衝突境界で起こる逆断層地震と考えられます。震源が深いため、規模の割に甚大被害にならずに済んだと思われますが、被害の全容は必ずしもはっきりしていません。小さいが明瞭な初期破壊相を呈します。このような場合の共通点として、破壊開始点から離れたところに断層滑りの大きな場所(アスペリティ)があります。

EIC地震学ノート No.118   Mar.06, 2002
◆遠地実体波解析◆
2002年3月6日
ミンダナオ島近海の地震(Ms.7.6)

●概略・特徴
 3月6日午前5時16分(現地時間)、ミンダナオ島近海を震源とする大地震が起こりました。震源地近くの沿岸で津浪が発生したという情報が流れましたが、詳細は不明です。
USGSによる速報震源は次の通りです。
  発生時刻    震央    深さ Ms
3月5日21:16:9.6(UT)6.11°N 124.12°E 浅い7.6

●解析結果(図2)。
(走向、傾斜、すべり角)=(329, 30, 75)
 地震モーメント Mo=1.1x10**20 Nm(Mw = 7.3)
破壊継続時間  T = 20s
深さ      H = 30 km  
断層面積 S=50km×30km
 食い違い    Dmax = 3.2m
 応力降下    Δσ = 4.7 MPa

●解釈その他
 メカニズムは低角逆断層で、セレベス海からミンダナオ島の下に向かって北東へ沈み込むプレート境界の地震と考えられます。ここでは、1976年8月16日に、死者8千人とも言われる被害を出した巨大地震(Mw8.1)が起っています。メカニズムは今回の地震と全く同じですが、震源域は今回の10倍の広さを持ちます。今回の地震が76年の地震のアスペリテイの1つが動いたのか、あるいは、隣り合う別のアスペリテイが動いたのかは、今後の地震を評価する上で重要です。





 近年、地球科学の研究において計算機はなくてはならないものになってきています。数値計算やデータ処理といった本格的な用途として計算機を用いるだけでなく、論文作成時の画像処理、文章作成や日頃の教育研究活動における電子メールやウェブの利用など文房具のひとつとして計算機は不可欠です。このようにさまざまな用途に用いられている計算機のために、多くのソフトウェアが開発、公開されていていますが、実際問題としてどれを選択し使えばよいのか、迷うことも多いと思います。
 そこで、所員向けに計算機の種類別、作業目的別に整理したソフトウェアダウンロードページがRAによって作成されています。RAにより整理、管理を行うことによって、所員の計算機環境整備にかかわる負担を軽減すると共に、情報を最新の状態に保つことができます。
 しかし、ここ2,3年はソフトウェアダウンロードページの更新が行われていなかったため、ソフトウェアのバージョンアップが行われていませんでした。また、以前は無料のソフトウェアだったものが、有料に変更されたものもありました。今回の更新ではバージョンを最新のものに更新し、最近作成された新しいソフトウェアも追加しました。また、現段階では有料のソフトウェアは削除し、無料のものだけを置いています。
URLは、http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/RA/indexj.html です。
 今のところ、主にWindowsのページしか更新しておらず、また、ソフトウェアの種類もあまり多くありませんが、今後はさらにページの充実を図っていきたいと思います。

♪ Microsoftからの通知を装って送られてくるウイルス ♪
 マイクロソフト社からのお知らせを装った悪質なウイルスが2つ出現しました。まず2月末に、Important: Windows updateという件名で送られるSHARPEIが出現し、続けて3月初めに差出人が、Microsoft Corporation Security Centerで件名がInternet Security Update で送られるGIBEが出現しました。いずれも添付書類を実行してセキュリティ対策をするようなお知らせとなっています。地震研では幸い被害が出ていませんが、自宅のパソコンではついやってしまいそうなメールです。添付ファイルを実行しないようにご注意ください。
♪ Linuxで発病するウイルス ♪
 ウイルスといえば昔はMacintosh向け、今はWindows向けがほとんどですが、そんな中Linux用のウイルスが見受けられるようになってきました。3月11日に発見されたLinux.Jac.8759 は、LinuxのELF実行ファイルに感染するウイルスです。Linux利用者はご注意ください。
§ メールのサイズ制限の活用 §
 最近受信メールのサイズ制限をかけるようにしたら思わぬ効用があることに気づきました。多くのウイルスは添付ファイルで送られて来ますが、サイズ制限を10KBぐらいにしておくとほとんどの添付ファイルはダウンロードされないでサーバに保存されます。ここで届いたメールの先頭をみてこのメールは不要であるとわかれば、「サーバから削除」をONにしてサーバに「メールの確認」をします。これにより不要な添付ファイルはパソコンにダウンロードしないで済むので、ウイルスをパソコンに取り込んで誤って実行してしまう危険性も大幅に減少します。一度試みてはいかがでしょう。